City of God - 10 Years later
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フェルナンド・メイレレス監督による2002年の傑作『シティ・オブ・ゴッド』。リオデジャネイロのスラムの血で血を争う抗争を描いたら、下剋上のサイクルが速すぎて街を牛耳るギャングがどんどん低年齢化していく衝撃。ブラジルのお国柄なのかヒドい話なのにカラッとしたエネルギーがほとばしり、痛快さすら感じてしまう怪作である。その素人ばかりを集めたキャスト陣の10年後を追いかけたドキュメンタリーがブラジルで製作されていた。
もし『シティ・オブ・ゴッド』に興味ゼロならこのドキュメンタリーは観なくていいかも知れない。ファヴェーラという環境が生み出す負のスパイラルに肉薄したドキュメンタリーならジョゼ・パジーリャの『バス174』のような優れた作品があるし、そもそも本作が提示する「一本の映画が人生にどんな影響を及ぼすか」というテーマを検証するのに10年後は早すぎる。結果として本ドキュメンタリーは「あの映画のあの人は今」式の特集番組の域から出ていない。
しかし『シティ・オブ・ゴッド』に魅了された観客にとっては話が違う。「リトル・ダイスくん太ったなぁ!」みたいな久しく会っていない親戚に再会するのにも似た感慨と面白味がある。もともと登場人物が多いので出演シーンが思い出せない人もいるが、知名度での出世頭とえいばハリウッドでも活躍するアリシー・ブラガとミュージシャンのセウ・ジョルジだろう。
【『シティ・オブ・ゴッド』の世界的成功はスラムに何をもたらしたか?】
ただ女優ソニア・ブラガを叔母に持つ芸能一家に育ったアリシーは「ファヴェーラ出身の素人」ではないので文脈からは逸れる。一方ファヴェーラ育ちのセウ・ジョルジは『シティ・オブ・ゴッド』の時にすでに30歳を超えていて子役でもなんでもなかったが、『シティ・オブ・ゴッド』がきっかけでウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』(2004)に抜擢、デヴィッド・ボウイの曲をボサノバ調で弾き語る船員という美味しい役を得た。同作で使われた歌と演奏はまるごとアルバムとして発売されていて、かなりの名盤である。
その後セウ・ジョルジはミュージシャンとしても俳優としても成功を収め、リオオリンピックの閉会式でパフォーマンスを披露する大スターになった。そのジョルジが、宿泊先のホテルでポーターをしている『シティ・オブ・ゴッド』の元出演者と再会する瞬間に光と影が交叉する。ただしそこに運命の皮肉が見えないのは、ずっと年長のジョルジが同じ界隈で育った兄貴分のように親し気に声をかけるからだろうか。
役者として活動を続けている者、映画業界に身を投じた者、一庶民の立場から思い出話として語る者、犯罪に手を染めたり、日銭を稼ぎながら再び陽があたる日を待っている者。その後の道行きはさまざまだが、彼らにしてもまだ人生の序盤戦であり、“可能性”という恩寵はまだまだ残されている。
それゆえにドキュメンタリーとして食い足りなさを感じるものの、作り手の作為ナシにさほど決してドラマチックでもないそれぞれの現在(といっても既に3、4年前だが)が点描されることでブラジル社会の一面を俯瞰で眺めることができるのも確か。70分と尺も短いので気になった方には一見の価値ありだと思います。
追伸: 話は逸れますが、『シティ・オブ・ゴッド』には姉妹編のドラマシリーズ『シティ・オブ・メン』(邦題は「CITY OF GOD~THE TV SERIES~」)及び『シティ・オブ・メン』の名義で劇場公開されたシリーズ完結編がある。こちらは『シティ・オブ・ゴッド』では極悪なクソガキを演じていた2人が主演したストレートな青春物。ストーリー上の時間の流れと主演の子役たちの成長がシンクロするファヴェーラ版「北の国から」、もしくはファヴェーラ版『6才のボクが、大人になるまで。』としてお薦めです。
※Netflixで配信中
内容・あらすじ
2012年。世界的に絶賛されアカデミー賞候補にもなったブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』から10年後。一躍脚光を浴びた名もないスラム育ちの少年少女たちのその後を追いかけたドキュメンタリー映画。