最後の追跡

NETFLIX

賞レースを席巻!現代のテキサスでスリリングに交錯する強盗犯兄弟と老保安官の人生 『最後の追跡』

配信メインの作品としては史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされるなど、全米賞レースで堂々たる存在感を放つNetflixオリジナル映画。それは田舎町で発生した銀行襲撃事件の成り行きを通して、アメリカンドリームが崩壊したテキサスの“今”を映し出す骨太な犯罪劇だった。

 2017.1.25

昨年の『ビースト・オブ・ノー・ネーション』に続き、全米の映画賞レースで大健闘しているNetflixオリジナル作品がこれ。「どうしてネット配信向けの映画が賞レースに絡むのか?」という疑問を持たれる向きもあろうが、アメリカで限定的に劇場公開したため、その資格を有しているのだ。
 
ちなみにIMDbのデータによると、『最後の追跡』は129の賞にノミネートされ、そのうち34賞を獲得(1/23時点)。ノミネート数51で32賞に輝いた『ビースト・オブ・ノー・ネーション』を上回る成果を上げている。さらに、この原稿を書いている最中にアカデミー賞のノミネーションが発表され、作品賞、助演男優賞、脚本賞、編集賞の4部門に名を連ねた。これはもう大健闘どころか“快挙”である。
  
テキサス州の田舎町を舞台に、銀行強盗を繰り返す兄弟と、それを追う引退間近のベテラン保安官の人生がスリリングに交錯していく様を描いた本作は、現代の西部劇であり、新たな時代のアメリカン・ニューシネマというべき犯罪ドラマだ。
 
ジェフ・ブリッジス扮する老保安官が相棒であるネイティブ・アメリカンの中年男を相手に笑えないジョークを連発しながら、強盗犯の行動を鋭く先読みし、キャリア最後の仕事をやり遂げようとする姿が味わい深く描かれていく。ブリッジスはキャストのクレジット順でもトップになっているが、彼の役回りはあくまで助演。クリス・パイン演じるわけありの強盗犯の弟(ならず者の兄役はベン・フォスター)が主人公である。
 
原題の『Hell or High Water』の意味は“地獄か、それとも洪水か”。日本語に変換するなら“たとえ火の中、水の中”といったところか。これは破れかぶれの強盗に手を染めるに至った、兄弟の悲惨な境遇を指している。彼らの一族は慢性的な貧困の病に蝕まれており、銀行の担保に取られた先祖代々の土地を失いかけている。そこで兄弟は貧困の連鎖を自分たちの代で断ち切るべく、綿密な強盗計画を立案、実行した。しかも金を奪い取る相手は、自分たち弱者を食い物にしている地元の銀行だ。
 
そして本作が色濃く映し出すのは、かのドナルド・トランプが圧倒的な支持を集めた、現代の政治やグローバル化から置き去りにされた世界だ。町からは活気が失われ、金貸しの看板やイラク帰還兵の悲痛な落書きがあちこちに目につき、広大な牧場は石油を掘るエネルギー企業に買い占められている。古き良きアメリカンドリームのなれの果てがここにある。
 
それでも不屈のテキサス魂は健在で、銀行に押し入った兄弟が一瞬でもスキを見せれば、テンガロンハットの老人が自前の銃を握り締めて勇ましく応戦する。テキサスの田舎など訪れたことない日本人は、こんな荒っぽい西部劇の世界が今も存在するのかと唖然とするしかない。雄大な詩情と荒廃が入り混じったテキサスの大地と、そこにどっしりと根づいたテキサス人気質こそが本作の主役と言ってもいい。
 
『パーフェクト・センス』『名もなき塀の中の王』のイギリス人監督デヴィッド・マッケンジーがメガホンを執り、製作にピーター・バーグ、音楽にニック・ケイヴ&ウォーレン・エリスが名を連ねるスタッフの中で、最も注目すべきは脚本のテイラー・シェリダンだろう。全米に吹き荒れたトランプ旋風に先立って“置き去りにされた世界”に目を向けたこの人物は、脚本家デビュー作『ボーダーライン』でメキシコ国境における麻薬戦争の知られざる裏側に迫った新進気鋭のライターだ。
 
『ボーダーライン』の続編『Soldado』が待機中のシェリダンは、すでに監督デビュー作『Wind River』を完成済みで、こちらはアメリカ先住民居留区で発生した殺人事件を追うFBIの捜査を描いたクライム・スリラーの模様。どうやらNetflixの出資作品ではないので、日本公開を気長に待つしかなさそうだ。
 
※Netflixで独占配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80108616

作品データ

製作年:2016年

製作国:アメリカ

言語:英語

時間:102min

原題:Hell or High Water

監督:デヴィッド・マッケンジー

脚本:テイラー・シェリダン

出演:ジェフ・ブリッジス クリス・パイン ベン・フォスター デイル・ディッキー、他