フリーバッグ
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30代独身女性のフリーバッグは、個人でカフェを起業している美人でお洒落なロンドンっ子。
同棲していた優しい恋人とは別れてしまったけれど、昔のイケメンな元カレが深夜に突然来てくれて今夜もお楽しみ…。
そんな様子を見ているとき。唐突に、フリーバッグは画面を見つめる私たちに向かって話しかけてくる。
彼を迎える準備について、今のセクシーな気分について、彼が去るときの心境について。
ドラマは全編、アラサー女フリーバッグの悲喜こもごもと、それを自ら実況するスタイルで綴られる。
この、主人公自身がカメラ目線で自分の話をするメタな構造は、はじめどこか懐かしさを覚えた。
今なら映画『デッドプール』を彷彿とさせるのだろうが、このスタイルはかつて人気を博したドラマ『SATC(セックス・アンド・ザ・シティ)』のシーズン初期の定番演出。
主人公キャリーがセクシーなシチュエーションのなか、それとは裏腹に赤裸々なホンネをカメラに向かって打ち明ける。当時はこれが斬新な演出として話題になったものだけど、シーズンを重ねるにつれなくなっていった。
だがフリーバッグは語る。語り続ける。いや語りすぎだよ!
とにかくひっきりなしにカメラに向かって喋りまくり、「一見美人でお洒落な」自分の化けの皮を、自らどんどん剥がしてしまう。
フリーバッグは本当のところ、日常生活を「ギリギリやってけるくらいの」貧乏で非常識で性欲過剰な女である。
カフェは閑古鳥が鳴いてジリ貧状態。恋人には隠れオナニーのし過ぎでフラれ(オカズはオバマ)、おまけに手癖まで悪い。
カフェに来た客はフリーバッグの溢れる性欲の餌食。カメラに向かって、
「次に来た客と絶対ヤル!」
と勢いよく宣言するも、来たのは自分のお父さんで、「…今のなしね」。
イケメンの元カレに誘われたら、しおらしく「いいわ」と答えつつ、こちらに向かって、
「よし!やった!ヤレるぞ!(歯を食いしばって)よっしゃあああ!」
赤裸々なホンネも行き過ぎるとまるでコントだ。
化けの皮が剥がれるなんてものじゃない、これは女の本音を描いたと言われる『SATC』を、バカ言ってんじゃねえとばかりに蹴散らしたホンネの本音、裏側の裏側。むしろアンチテーゼとしてのパロディなんじゃないだろうか?
いやあ、笑った笑った。久々にドラマ観てて声出して笑いました。
そしてなぜだか泣けてきた・・・。
フリーバッグはとにかく喋る。こちら側の私たちに向かって、喋る間がない時でさえ細かいリアクションを送ってくる。まるで友達に目配せでもするように。
なぜこんなに話しかけてくるのか。フリーバッグは、「ひとり」だからだ。
『SATC』でこの語りかけるスタイルが消滅したのは、キャリーに親友たちがいたからだと思う。その存在がドラマの中で強くなっていくほどに一人でしゃべる必要性が失われていった。
だがフリーバッグには、本音を分かち合う者がいない。
恋人には嘘をつくし、姉や父親とも仲良しとは言えず、かつていた親友は…。
皮肉たっぷりの辛辣な実況で大いに笑わせつつ、その隙間にフリーバッグの抱える寂しさがほの見える。
一話30分。主演のフィービー・ウォーラー=ブリッジが自ら脚本も手掛けている。どおりで女芸人張りのリズム感と小気味よさ!脇を固めるキャラクターも曲者ぞろいで、飽きずに観られることと思う。
同じく主演女優が脚本を手掛ける米ドラマ「GIRLS」と破天荒さや赤裸々さでは共通点も多いが、私は孤高の(?)フリーバッグが好き!
フリーバッグが語りやめる時は来るのだろうか。
この愛すべき変態の彷徨を、おなかを抱えて笑いながら見守ろう。
※Amazonプライムビデオで独占配信中
《予告編》
《視聴リンク》
https://www.amazon.co.jp/dp/B01N6S4YBK/