レッド・オークス シーズン3

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まだ何者でもなかった時代の終わり。『レッド・オークス』シーズン3

Prime Originalでスティーヴン・ソダーバーグが製作総指揮を務める青春コメディドラマ「レッド・オークス」がシーズン3で完結した。等身大の青春物として、マンガっぽく言うなら「いつか映画監督になる男」の物語だが、より平凡さを増しながら、希望の光がほんのり注ぐ平凡な結末へと着地したストイックさに拍手を贈りたい。

 2018.2.07

夏休みはカントリークラブ“レッド・オークス”でテニスコーチのバイトをしている若者デヴィッド(クレイグ・ロバーツ)を中心に、クラブに集まる面々の群像劇を描き出した青春ドラマ「レッド・オークス」は、共同脚本を手がけるクリエイターのグレゴリー・ジェイコブズ自身の若き日をモデルにしている。ジェイコブズは実際にカントリークラブでテニスコーチのバイトをしていて、進路の定まらない若者だったからだ。
 
とはいえジェイコブズは「必ずしも自伝じゃない」と公式に発言している。もし自伝だったらすぐにネタに詰まって、非常につまらないドラマしか仕上がらないというのが理由らしい。実際「レッド・オークス」はカントリークラブのオーナーの娘スカイ(アレクサンドラ・ソーシャ)との身分違いの恋、親友ウィーラー(オリバー・クーパー)が巻き起こすドラッグ絡みの珍騒動、両親が離婚して母親(ジェニファー・グレイ)がレズビアンに目覚めるなどドラマらしい起伏がちゃんとある。シーズン1の第7話なんてデヴィッドと父親の身体が入れ替わるファンタジックなドタバタコメディだった。
 
にも関わらず、「レッド・オークス」が等身大の青春を描いてると感じられるのは、ジェイコブズと共同クリエイターのジョー・ガンジェミによるコンビの節度によるところが大きい。またシーズン2のエピソードの半分を監督したハル・ハートリーがいい意味での“地味”化に拍車をかけたように思う。シーズン2から画調や演出がさらに落ち着いてくるから、なおさら地味な印象にもなる。
 

60年代の『卒業』からインスパイアされた80年代の青春

ジェイコブズとガンジェミは狂騒の80年代を舞台にしつつも、お手本としてマイク・ニコルズの『卒業』(1967)を念頭に置いていたという。『卒業』でダスティン・ホフマンが演じていたのは、大学を卒業したけれど夢も将来の展望も野心もなく、退屈しのぎのように年増のご婦人との逢瀬にのめり込む若造だったが、「レッド・オークス」のデヴィッドの煮え切らなさも負けてはいない。ジェイコブズの半自伝的な作品、という裏情報だけでなく、劇中でも映画業界を目指していることは再三語られているのに、才能のきらめきとかガツガツしたハングリー精神みたいなものがさっぱり見られないのだ。
 
「そんなものが面白いの?」と問われれば、胸を張って「面白いです!」と答えられる。世の中にはいろんな生き方を選択した人がいて、成功者や芸術家がみんな破天荒伝説を持ってるわけじゃない。名声によって下駄を履かされる“立志伝”から、敢えて虚飾をはぎ取ってみせたかのようなさりげないナチュラリズムがこのドラマの得難い持ち味なのである。
 
さて、シーズン3は全6話と短い(エピソード監督はデヴィッド・ゴードン・グリーン、エイミー・ヘッカリング、ハートリーがきれいに2話ずつ担当している)。いささかコンパクト過ぎる気はするが、着実に青春は終わりへと向かっていく。デヴィッドはCMやミュージックビデオの制作会社のインターンとして働いていて、もはやレッド・オークスのテニスコーチをする暇はない。レッド・オークス自体にも買収騒動が持ち上がり、静かな終焉の匂いが漂ってくる。そしてヒロインだったスカイが色褪せた普通の女性になっていく描写は象徴的で、一見のんびりとほのぼのしたこのドラマの水面下には、実はかなりシビアな現実が横たわっていることを気づかせてくれる。
 

もし続編が作られたらきっとアメリカ版「アオイホノオ」に!

そしてデヴィッドはモラトリアム時代に区切りをつけてCMディレクターとして一本立ちするチャンスを掴む。でも「天才ディレクター誕生!」みたいな景気の良さは特に感じられないのが本当に「レッド・オークス」らしくていい。
 
ただし、である。ジェイコブズがいくら否定しても、やはり主人公デヴィッドにはジェイコブズのような将来が待っているのではないかと想像するのはやめられない。ジェイコブズは助監督やアシスタントとして、ジョン・セイルズの『メイトワン-1920』(1987)、コーエン兄弟の『ミラーズ・クロッシング』(1990)、ハル・ハートリーの『シンプルメン』(1992)に『愛、アマチュア』(1994)、リチャード・リンクレーターの『ビフォア・サンライズ/恋人までの距離』(1995)などに参加し、1993年以降はソダーバーグ作品のほとんどすべてに関わり、『マジック・マイクXXL』(2015)を監督したりするのである。
 
ラストににわか業界人になったデヴィッドが果たしてどんな風に成功するのか、それともしないのかはわからない。が、もしシーズン4があるならば、個性的で才能あふれる映画監督たちがゾロゾロと出てくる映画業界レジェンドの物語になるはずで、もはや「レッド・オークス」ではなくアメリカ版「アオイホノオ」と呼ぶべきだろう。それはそれで観てみたいですけども。
 
あと最後になりますが、シーズン3の実質的なヒロインとなる新キャラ、アナベルを演じたアリソン・ラニアーがやたらと可愛かったので、彼女が世界をめぐる出会い系アプリTinder PlusのCM映像を貼っておきます。

#TinderPlus | Hers from Magna Carta on Vimeo.


 
 
※Amazon Prime Videoにて配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B077T843SW

作品データ

製作年:2017

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:Red Oaks season 3

出演:クレイグ・ロバーツ エニス・エスマー オリヴァー・クーパー リチャード・カインド ポール・ライザー ジェニファー・グレイ ジーナ・ガーション 他