ビースティ・ボーイズ・ストーリー

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大人になった本人たちが語りつくす、ビースティ・ボーイズのすべて 『ビースティ・ボーイズ・ストーリー』

スパイク・ジョーンズが、ビースティ・ボーイズのトークライブを撮影・監督。彼らがどんな四半世紀を送ってきたのかを描き出すライブドキュメンタリー。

 2021.3.28

「2019年に3日間限定で行われたビースティ・ボーイズのトークライブを、スパイク・ジョーンズが監督したドキュメンタリー」と聞いて、心をわしづかみにされる人のほとんどは、90年代~00年代にかけて洋楽にどっぷりつかった青春時代を送ったのではないだろうか。中には、ビースティ・ボーイズへの愛を胸に抱き、当時の記憶やヒップホップに関連する知識が泉のように湧き出てくる人もいるだろう。多くの人は、スパイク・ジョーンズが監督した名曲「Sabotage」の名MVを思い出すかもしれない。とにかく、これらの名前に反応する人は、当時の音楽や、それを取り巻く空気感を覚えていたり、興味があったりする人がほとんどだと思う。では、そういった予備知識がないと本作を楽しめないのかというと、そんなことは決してない。
 
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これは、NYの音楽好きのやんちゃな3人のティーンエイジャーたちが、いくつもの偶然かつ運命的な出会いをして、金字塔とも言える楽曲を生み出し、紆余曲折ありながらも大人として成熟し、さまざまなことを学び、成長していった様子を自分たちが振り返りながら語る作品として、誰もが楽しめるはずだ。

 

ビースティ・ボーイズは、MCA(アダム・ヤウク、2012年にがんにより死去)とマイクD(マイク・ダイアモンド)、アドロック(アダム・ホロヴィッツ)によるヒップホップグループ。80年代初頭、ライブハウスで出会った少年たちは、パンクバンドを結成。その後、84年にNYで一大旋風を巻き起こしたRUN DMCの「Sucker MC’s」という曲に衝撃を受けてラップを始めるようになる。やがてヒップホップ界の大物であるラッセル・シモンズと出会い、大ヒット曲「(You Gatta)Fight to your Right (to the party)」を含む1stアルバム『Licenced to Ill』を、シモンズが設立したDef Jamレコードからリリースする。

 

ここまでは、インターネット上でかんたんに見つけられる情報だ。デビューしてからの画像や映像も、検索すればすぐに見つけられる。けれど、このドキュメンタリーでは、3人が出会った当時の15~16歳のころの本人や家族しか持っていないであろう貴重な写真や、初めてのライブでリリックを書いた紙を見ながら緊張混じりにラップする映像などをスクリーンに大写しにし、それについてすっかり大人になった彼ら本人がコメントしていく。まるで招待された家で、肩を並べて古いアルバムを見ながら、思い出語りを聞かせてもらうように。
 
Beastie_Boys_Story_Photo_0101満員のコンサートホール会場は、ビースティ・ボーイズを愛する人々が集っている。いつものスタンディングのライブとは違うけれど、着席してステージ上で話をするアドロックとマイクDを見る観客は、みなとても楽しそうだ。スクリーンには、スパイク・ジョーンズによって絶妙なタイミングで映像や写真が映し出されるのだが、まさにこれこそが、彼らが語る言葉をよりわかりやすく、深いものにしている。さらに、ドキュメンタリー作品としての映像編集は、会場の和やかで愛にあふれた空気をそのまま切り出すことにも成功している。

 

前半は、結成から1stアルバムとライブツアーの大成功とその功罪について、時にはおもしろおかしく、時には自省も込めて語られる。ひとつのグループがブレイクする様子とその狂乱の日々が描かれているのだが、同時に、ヒップホップという音楽と文化がメインストリームになっていく様も見事に映し出されていて、ヒップホップの文化史としても興味深い。とくに、個人的には当時黒人音楽としてスタートしたヒップホップの中で、メンバー全員が白人であるビースティ・ボーイズが、どういうポジションにあったのかを今回新しく知った。
 
Beastie_Boys_Story_Photo_0104輝かしい1stアルバムの成功と、ツアーの酒とクラブとパーティの日々で自分を見失ったこと、すべてに嫌気がさしてロサンゼルスに移り制作した2ndアルバム『Paul’s Boutique』の思わぬ失敗、続く『Check Your Head』でミュージシャンとしての自信をつけたこと、『Ill Communication』制作中にNY時代の古い友人を亡くしてNYへの想いが強くなったこと。NYに戻り、デビュー以前の自分たちを取り戻して制作された『Hello Nasty』のこと……。

 

そしてついに、この場にいるべきなのにいない、もうひとりのメンバー、MCA=アダム・ヤウクの死について語られる。「あれが最後のライブになるなんて、思ってもみなかった」。そう切り出して、たびたび言葉を詰まらせるアドロックの肩をそっと叩き、そのあとのセリフを自然に続けるマイクD。そのふたりの姿が、今までの長い年月をともに過ごしてきた重さを、互いにとって誰よりもたいせつな存在を喪ったことを伝えてくる。

 

インターネットも、もちろんSNSもなくて、日本で海外の音楽情報を得るためには、月刊の音楽雑誌しかなかった時代のビースティ・ボーイズといえば、音楽もカッコいいけれど、ビッグマウスで、全力でバカをやり、多方面にケンカを売るやんちゃな兄ちゃんたちというイメージだった。それがいつしか、このドキュメンタリーで語られるような年月を経る間に、かつて書いた女性蔑視的な曲を反省し、「どんな女性にも敬意を払うべきなんだ」というリリックを書くようになったり、MCAが主導して、チベット問題について啓蒙するためのフェスを主催するようになっていた。

 

まだ経験が少ない若いころに爆発的な成功を体験したら、傍若無人になるし、口からでまかせも言うし、冗談と言ってはいけないことの分別がつかない。たとえそんな成功体験がなかったとしても、年を重ねるごとにみんないくつかの手痛い失敗をして、すこし賢くなり、自分以外の他人を尊重するようになる。大人になる。かつての悪ガキ3人組が自分たちのもつ影響力に気づき、その大きな力を善なるものへ使おうとするようになった四半世紀は、同じようにわたしたちにも流れた時間だ。彼らが変化したように、わたしたちも同じ人間であり続けることなく、変化できているだろうか。

 

※AppleTV+で配信中

 

【予告編】

 
【視聴リンク】
https://tv.apple.com/jp/movie/umc.cmc.6d0mrskjsusw2jd2d228p88c2

作品データ

製作年:2020年

製作国:アメリカ

時間:119分

原題:Beastie Boys Story

監督:スパイク・ジョーンズ

製作:2020年

出演:マイクD アダム・ホロヴィッツ