ベータス
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フェイスブックの登場で、SNSは世界を変えるといろんな人が思っていたし、新たなビジネスモデルとして世界中が注目した。そしてこのドラマで描かれるのはフェイスブック以後のシリコンバレー。SNS市場が飽和状態になった後の若き起業家、”ベータ版”の若者たちの物語だ。
と、それっぽいことを書いてみたが、ストーリー自体はとてもストレートな青春ドラマ。4人の男子と1人の女子によるチームの友情・恋愛・挫折・努力の物語だ。
主人公は、大学時代の友人同士で立ち上げたアプリの成功を夢見る二人の若者。交渉ごとが得意でイケメンのトレイ、天才的なエンジニアだが内向的なナッシュ。スティーブとウォズを意識したようなこの2人の主人公が考えたのは“新たな出会いの場”を提供するアプリ《BRB》。
ここに35歳の前科持ちのハッカーおじさんホッブス、性格に難アリなコーダーのミッチェル、広報担当の女子ミッキーの3人が加わり、一丸に、と言いたいところだが、喧嘩して恋愛して、右往左往しながらアプリの成功を目指していく。
シリコンバレーで新たなサービスを開発して投資を募る、なんて、日本に住んでそんな世界と縁のない生活を送ってる身からすると、思いつくのはアップルのシュッとしたプレゼンか、映画『ソーシャル・ネットワーク』の遊びと仕事が一体化したような風景だ。このドラマは確かにそういったイメージも裏切らないのだけれど、そこにちょいちょい”facebook以後”を感じさせる世知辛さが混じってくる。
ドラマの冒頭から世知辛さは満載。
冒頭シーンは流行りのシェアオフィスで熱心にPCに向かうナッシュから始まりますが、ナッシュの姿は開発者のイメージそのもの、しかしオフィスはといえば、周りがうるさすぎて全然作業には集中できない。
当然、サービス開発中の若者たちというのも玉石混合なので、そうなることもあるよな……と妙に納得してしまった。
その他にも、CEO(兼、渉外担当)のトレイは投資家探しに社長が集まるパーティでロビイ活動に奮闘するが、面倒を見てくれる会社が見つかった後も社長からの無茶振りで“β版”の開発が急に早まり、苦労の末チームは大喧嘩(そして早まって出来上がったアプリはバグだらけでリリース直後即炎上、これはもはや世界共通の現象ですね)。
シリコンバレーのアントレプレナー、なんて横文字の印象とは裏腹に、泥臭く頑張る姿は、とても好感が持てます。
そんなトレイは全話通してパーティに行きまくるんですが、その内の1つに「大型メディアにリンクをもらうための営業」というのがあって一気にシリコンバレーが身近になった(個人的に)。
そして肝心のアプリ《BRB》の設定もツボを押さえているなあと思った。
アプリの仕組みはちゃんと考えられてるんだけど、いまいち決め手に欠ける。「今までの出会い系アプリと何が違うの?」と思ってしまうし、劇中でも同じことをつっこまれるあたりの出来具合がなんともリアル。
それがシーズン中盤、7話あたりで、開発チーム男子4人がある体験をした末に大幅アップデートがほどこされる。そしてそのアップデートが、ちゃんとリアリティを持って、他のSNS系アプリとの差別化を図った内容になっている。そこのさじ加減はさすがAmazonという感じ。
また、ドラマの同軸上でトレイのCEOとしての苦悩も常に描かれるのだけれど、そんな彼を時に後押し、時に足を引っ張るSNSマーケットの先駆者たちが発する言葉が、コミュニケーションを軸にしたサービスを作っている割に寂しい言葉ばかりなのが印象的だった。
誰が言ったのかはドラマを見てもらうとして、印象的だったセリフを2つほど抜粋。
“現実の交流が苦手だった。
だからネットの世界を通してコミュニケーションできる場を作った。
それが、現実の交流を苦手とする世代を作った”
“SNS市場はもう飽和状態よ。写真やツイートを褒めあうだけの場になってるわ”
ふと発されるこんな言葉たちは、このドラマが2013年に作られた時代性をリアルに感じさせてくれる。
青春ドラマとしても十分に楽しいが、特にIT業界に身を置く人にはニヤリとする場面、ヒヤっとする場面がたくさんあるのではないでしょうか。
ちなみに会話の中で出てくるサービスはほぼ実在のもので、IT系ニュースの大型メディア、Tech Clunchは頻出。「ここに掲載されれば何十万ユーザー獲得だぜ!」みたいな描写がわんさか出てきます。
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内容・あらすじ
Amazonオリジナル。シリコンバレーでは優れたアルゴリズムを生み出す者が世界を制覇できる。4人の仲間はついにその扉を開けたと思ったのだが…。