XOXO
NETFLIX
「クラブカルチャーは遠くにありて思うもの」
私のような一塊の小劇場役者はそう教わって生きています。(嘘だけど)
だけどじっさい、渋谷より新宿、六本木より下北沢を選び、和民やさくら水産を住処としてきた我々にとって、クラバーやDJなんて存在は遠くの花火を観るようにおぼろなもの。
危うげな世界に憧れてクラブに通ってみた時期もあったけれど、結局のところ音楽を聴きに行くというよりは「必死に踊って何かを表現して帰る」みたいな、よくわからないけど勝った、みたいな、持てあます表現欲の発露になっていただけかもと思います。
だからEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が全編散りばめられた青春映画と聞いて、そんな私には永遠に敷居の高い、遙か彼の地のオサレな少年少女クラバーの話なんだろうと構えて観はじめたのですが、意外にも身近な感覚で楽しめました。
『XOXO』は「少年よ、大志を抱け!」という、いつの時代も変わらぬ普遍的な呼び声に熱いEDMサウンドで応えた、若者たちのグローインアップドラマなのでした。
駆け出しのDJイーサンは、歌手志望だった母親の歌をアレンジした楽曲がYouTubeで話題になり、米最大のEDMフェスティバル「XOXO」に出演することに。そんなイーサンを中心に、このフェスに出向く6人の男女の運命が交差する一夜を描いている。
何よりもまず驚くのがこの「XOXO(キス&ハグ)」という架空のフェス!
エレクトロニックな蛍光色で彩られた野外フェスの様子は、ドラッグ&バカ&ピースな若者たちの狂騒も含め、見終わるまで実在すると思っていたくらい大規模でセットも撮り方もかなりの迫力。
こんなフェスならドラッグ抜きでもハイになってしまいそう!!
映画のどこを切り取っても豪華DJアーティストたちによるクラブミュージックが堪能出来るので、長編MVのような感覚でも楽しめる。
個人的にはラコステのCM曲で鮮烈な印象を残したディスクロージャーの「You&Me」がパロディ感溢れる使い方をされていたのが好きでした。
音楽にばかり目が行ってしまいそうなところで、海外ドラマファンに注目してもらいたいのはキャストたち。
イーサン役は『グッド・ワイフ』で主人公アリシアの長男を演じたグラハム・フィリップス、彼のボーイミーツガールな役どころを演じるサラ・ハイリンドは『モダンファミリー』の長女役。
それぞれ人気ドラマシリーズの「子ども役」である彼らが、ドラマの面影を残しつつ大人の世界に足を踏み入れていく様子をオカン目線でハラハラと見守るのもまた一興。
彼、彼女らが「若気の至り」という言葉のままに、今しかできないことを一瞬一瞬、全力で楽しんでいる様子、また若者×EDM(×ドラッグ)と構図を同じくする青春映画という点では、EDM界のスター・スクリレックスが音楽を手がけた『スプリング・ブレイカーズ』に近い印象がある(これもやっぱり蛍光色満載だし)。
しかし『スプリング・ブレイカーズ』で聴く音楽の執拗に繰り返されるBPMが、ドラッグに溺れ沈んでいく心情と重ねたような退廃的な印象だったのに比べ、『XOXO』には明るさや飛翔するような快感があり、それはまるでドラッグの明と暗、照らす角度の違いのようにも見える。
その明と暗はドラッグに限らず、成長と退廃が同じ場所に混在している若者ならではの姿なのかもしれない。
「このままずっと楽しんでいたい」
そう思う若者たちは、同時に、このままではいけないという想いも抱えている。
爆音のサウンドに突き動かされて走り出す彼らのささやかな成長は、花火のように打ち上がる華やかなフェスのなかで、線香花火のように瞬いている。