ビル・マーレイ・クリスマス
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【ボヤキ顔の名優ビル・マーレイが教える脱力クリスマスの過ごし方】
「メリー・クリスマス!」をもじって「マーレイ・クリスマス!」と銘打たれた本作は、“映画”というより“番組”と呼んだ方がしっくりくる。作品全体を使って、かつてアメリカのテレビで毎年恒例で放送されていた《クリスマス特番》にオマージュを捧げているからだ。
《クリスマス特番》とは、歌ありトークあり、豪華ゲストが一堂に会してクリスマスをお祝いするバラエティーショーのこと。そのホスト役をビル・マーレイが務めることになるのだが、なんと生放送の当日にNYで大雪! 交通機関がストップしてゲストが誰も来られないという窮地をマーレイは切り抜けられるのか?
と、そんな筋書きで物語は進んでいくが、いい意味でストーリーはあってないようなもの。『ロスト・イン・トランスレーション』に直結する「可笑しさと隣り合わせの喪失感」は本作にも備わっているし、ビル・マーレイという存在自体が涙も笑いも呑み込んだペーソスの塊なので、全編に「寂しいもの同士が肩を寄せ合っているような」優しさが宿っている。クリスマスに恥じない贅沢なキャストが揃っているが、実はゆるくてシケたほろ苦いムードこそが最大の魅力と言える。
【あり得ないほど豪勢なオールスターキャストもゆる~く登場】
マーレイ以上にすっ呆けた風情を漂わせるのは難しいが、誰もが力むことなく芝居しているのも微笑ましい。大物ではジョージ・クルーニーにマイリー・サイラス。ソフィア・コッポラ人脈からは従兄のジェイソン・シュワルツマンやソフィアの夫トーマス・マーズが率いるインディーズバンド、フェニックスの面々。クリス・ロックにマヤ・ルドルフら「サタデー・ナイト・ライブ」所縁のコメディアン勢。映画系ではマイケル・セラにラシダ・ジョーンズ。音楽畑ではデヴィッド・ヨハンセンにスティーブ・ジョーダンなど、幅広いジャンルをまたいだ顔ぶれを発見するだけでも楽しい。
無論、このゆるい56分間が1800円取られる映画だったら文句も出るだろう。しかしそもそもオマージュを捧げているクリスマスのテレビ特番に倣ってか、気軽に“ながら見”ができるようにできているのがいい。つまり本作の“ゆるさ”は必然であり、むしろちゃんと“ゆるく”作られたと考えた方が妥当だろう。
それが“セレブたちの内輪のお遊び”に終わっていないのは、ソフィア・コッポラのセンスもあれば、登場する出演者全員がちゃんとそれぞれの物語をまとっているから、というのもある。とりあえずこのメンツがザ・ポーグスの至高のクリスマス・ソング「ニューヨークの夢(Fairytail of New York)」を合唱するってだけで食指が動く人は即視聴を。そうでない人は次のクリスマスまで大事に取っておくのもオツなものかも知れません。