キース・リチャーズ: アンダー・ザ・インフルエンス
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キース・リチャーズと言えば、歯に衣着せぬぶっちゃけトークと音楽愛があふれ出るロック界の巨人だ。ザ・ローリング・ストーンズのギタリストであり、数々の名曲をものにしたソングライターであり、映画の世界では『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウの父親役でもおなじみ。そもそもジャック・スパロウ自体、ジョニー・デップがキースをモデルにして演じていて、デップのたっての希望で父親役を引き受けたのは有名な話。
このドキュメンタリーは、いきなり牧歌的な風景とクラシック音楽から始まる。ロックの映画のはずなのにと一瞬戸惑うが、キースが自分の音楽的ルーツに立ち返って歴史をさかのぼることが主旨であり、クラシックもまたキースの幅広い音楽性の一部なのだと伝えているのだ。
同時に本作は、キース・リチャーズが2015年に発表した23年ぶり3枚目のソロアルバム『クロスアイド・ハート』のプロモーションも兼ねている。『クロスアイド・ハート』自体がキースに影響を与えた様々な音楽を讃える内容であり、ルーツ探訪という映画のコンセプトが生まれたのも当然の成り行きだったろう。フッテージ映像の大半はストーンズ絡みの音楽ドキュメンタリーで既出のものだが、「キースの音楽史」という文脈で構成されることで違う角度が見えてくるのが面白い。
ブルースをエレキ化したマディ・ウォーターズ、ロックンロールの元祖チャック・ベリー、キースをカントリー音楽へと誘ったグラム・パーソンズらとのエピソードがそのままアメリカ音楽史の豊かさに重なるのも、キースというミュージシャンの懐の深さ。実際映画の中でトム・ウェイツが「キースは考古学者タイプ」と分析している。放埓なロックスターのイメージとは違う、音の求道者としての顔が立ち上ってくるのは、キースが音楽ディレクターを務めたコンサートのドキュメンタリー映画『チャック・ベリー/ヘイル・ヘイル・ロックンロール』(1987)にも通じる。
と、解説みたいに書いてしまったが、長年のファンとしてはもうキースのギター演奏の手元が間近に見られ、キースの愛器の数々が登場し、スティーブ・ジョーダンやワディ・ワクテルら気脈が通じた凄腕たちとのセッションが観られるだけで生唾モノ。前述したトム・ウェイツと演奏している場面もあって、なんとありがたい映画であることか。キースとウェイツのコラボ歴は長いが、いずれもスタジオ録音であり、ミュージシャンとして共演している姿が観れるのは珍しい。
ぶっちゃけ最近のストーンズのライブではキースの省エネ奏法が過ぎて、もう年齢的にもエッジのある演奏はムリなのかと思ってしまっていた。ところが本作ではグッと締まったギターを披露しており、すっかり天然記念物扱いしていた自分を猛省せずにいられない。ごめんなさいキース爺ちゃん。ストーンズのレコーディングではベースを担当することも多いが、実際にベースを弾いている姿を観られるのも貴重で、このベース演奏がまたカッコいいのだ。
キースの愛すべきキャラといぶし銀の演奏を楽しみつつ、生のアメリカ音楽史に触れる実感が得られるお徳感。ロックファン、ストーンズファンに限らず音楽に興味がある人ならば2度、3度と観返す価値がある。ブルースに立ち返ったストーンズの新譜がリリースされるこのタイミングに、改めておススメしておきたいです。
そういえばジョニー・デップも長年にわたってキースのドキュメンタリーを撮影しているはずで、そっちの方もそろそろ発表してはくれまいか。
内容・あらすじ
キース・リチャーズ3枚目のソロアルバム『クロスアイド・ハート』製作の舞台裏と、キースがが自らの音楽的ルーツだと語るアメリカ音楽ゆかりの地を探訪する姿を追ったキュメンタリー。監督は『バック・コーラスの歌姫たち』(2013)のモーガン・ネヴィル。