世代によって印象は違うだろうが、ギャビー・ホフマンといえば『フィールド・オブ・ドリームス』『Dearフレンズ』『200本のたばこ』などの美少女すぎた元子役だ。現時点で34歳だが、オッサン側のわれわれにはいつまで経ってもあの美少女のまま……のはずだった。が、彼女はこちらの想像を一枚も二枚も上回る劇的な変化を遂げ、“ものすごい”としかいいようのない怪女優に成長していた。その“怪”なる個性がみごとに活かされているのが、トランジェンダーの父親に振り回されるニート娘＝アリを演じた「トランスペアレント」だろう。
　
「トランスペアレント」に登場するフェファーマン一家の面々は、誰も彼もがシャカリキになって自分を探している。一番年若いアリでさえ30代に差し掛かっており、さすがに“自分探し”してる場合じゃねえだろうと思わなくもないが、番組自体が「自分らしくありたい！」という理想を追い求める代償をテーマにしており、何歳になってもやめられないジタバタの物語なのだからしょうがない。
　
そんなテーマを象徴する人物がジェフリー・タンバー扮する家長のモートン。60代で偽りの自分を捨て、トランジェンダーとして生きる決意をする大学教授、という役どころだ。パパであるモートンのカミングアウトは、3人の子供たちそれぞれに違った形で多大な影響を与えることになるのだが、次女のアリに至っては、もっともっと前からモートンすら足元にも及ばないほどに人生をこじらせ、つまずきまくって生きている。
　
アリの強烈な個性を象徴しているのがギャビー・ホフマンのビジュアルで、ひとことで言うなら「ありのまま」。繋がりかけた濃い眉毛、明らかにわざとケアしていない腋毛、ハリウッド女優とは思えぬ隙っ歯、ゴロリとした体型。老婆にも見えれば荒野に放たれた野生児にも見える。一体われわれが昔観ていたあの美少女はどんな人生を送ってきたというのか。それでいて女を捨てているわけでもなく、脱ぎっぷりよく男を狩りにいく肉食女子でもある。
　
壁を見つければぶつかっていくようなアリの自分探しはもはや自傷的という表現では収まり切らず、ハードコアスタイルのファイターという気がしてくる。自分のアイデンティティが見つけられない、空虚を満たしたいからこそあらゆるものに手を出してみよう。ダイエット、行きずりの関係、人種間セックス、3P、ジェンダーの壁、支配的な関係、被支配的な関係、なんにも身体ごと飛び込んではあちらでゴロゴロ、こちらでドタバタ、それでいて優しさに裏打ちされた正論も吐く。プライベートで会ったら絶対に面倒だが、劇中では最も好感を呼ぶキャラクターかも知れない。
　
アリが自分自身をキャンバスのように考えているのは、髪の色やヘアスタイルやファッションがコロコロ変わっていくことからも明らか。言うなれば、アリとはわれわれが試してみようともしない可能性を片っ端から潰しにかかってくれているのだ。「トランスジェンダーをカミングアウトするパパ」という設定で『人生はビギナーズ』を連想するかも知れないが、本作はもっと生々しく挑発的で胸に痛い。そして茨の道の探求を続けるジャンヌ・ダルク、アリ＝ギャビー・ホフマンから目が離せなくなるのである。
　
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［シーズン１ダイジェスト］

　
［視聴リンク］
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