パブロ・エスコバル - 悪魔に守られた男
村山章の《今日のエスコバル》
久方ぶりの更新です。『ナルコス』の影響もあって最近はエスコバルの息子がメディアに露出している模様。いまは名前を変えて建築家として暮らし、亡き父の悪行の反省と謝罪を表明する活動もしているらしい。そんな息子から父親としては今も愛していますと言ってもらっているエスコバルさんはドラマの中では今日も元気です。
【第六話:ゴンサロのオシャレは帽子から】
第五話のラストで麻薬組織“メデジン・カルテル”の幹部を招集したエスコバル。コロンビア政府とアメリカ間で結ばれた犯罪者引き渡し条約が死活問題になると気づいたエスコバルの危機感の表れだが、集まった人数は大き目のテーブルを囲めるくらいで思ったほど組織はデカくなかった。
「地味に手堅く稼ごうぜ」なんて発言も飛び出すが、エスコバルには政界に打って出る構想があり「これからはそれぞれが勝手なことはせずに合議で決めよう」と提案する。聞こえはいいが野合の組織を自らの方針でまとめ上げる腹だ。女帝グラシエラも「みごとな洞察ね」とヨイショ。エスコバルも偉くなったものである。
エスコバル一家と仲間たちのファミリードラマとしての側面が強かった本シリーズだが、さらなる非常事態の勃発で一気に硝煙の匂いが立ち込める。カルテルの一員であるモトーア兄弟の妹イルマが何者かに誘拐されたのだ。前回エスコバルと提携したはずの反政府ゲリラMR20の仕業である。
ゲリラ側は金持ちの家なら誰でもいいから誘拐して身代金をふんだくって活動資金にする算段なのだが、脅迫には屈しないエスコバルの強い意志がメデジン・カルテルの武装集団化に拍車をかける。「ゲリラどもは民衆のためと言いながら、殺人に恐喝、誘拐、虐待、人権侵害とは実にけしからん!」と徹底抗戦を宣言するのだ。
現在から振り返ると「どの口がゆうとんねん!」という話だが、《誘拐犯に死を!》というストレートすぎるチーム名を名乗り、満場のサッカースタジアムにセスナ機からチラシを撒くなど大々的な宣伝キャンペーンを展開。イメージ戦略とは恐ろしいもので、極悪麻薬組織がなんとなく民衆にとっては味方に見えてくるし、不甲斐ない警察や政府への反発も芽生えてくる。大声でゴリ押しした方が人気を得る、どこの国でも起きるポピュリズムである。
とはいえエスコバルが私利私欲のために武装化を強めているわけでもない。イルマ・モトーアの救出には本気であり、妻パトリシアに「平和的に解決して欲しい」と懇願されても「これが自分の家族だったらどうする? オレは友人のためでもやる人間だ」と言い切る。二枚舌では人はついてこない、まずは行動で示すのがエスコバルのリーダー論なのであろう。
800人態勢で町にあるすべての公衆電話を監視し、MR20のアジトが判明すれば自ら銃を持って先頭に立つ。見た目は太っちょのおじさんでもかなりの行動力だ。撃たれた部下への「血を見るな、ショックで眩暈がするぞ」と超的確なアドバイスはどこで身に着けたものなのか。しかし捕まえたゲリラをキンタマ掴みの拷問にかけたり車二台で引き裂いたりしてもイルマの行方はつかめない……。
ここで登場するのが困った時のママコバル。「力で押してもダメながら別の手を考えなさい、エサを置くべき場所はネズミの種類によって変わるのよ」と相変わらずの名言ジュークボックス。エスコバルが一休さんよろしくなにか閃いたところで第六回は了となる。
今回の見どころは相棒ゴンサロのダンディっぷり。アジト襲撃の日、若衆を集めて檄を飛ばしている時は可愛い黄色の柄物ベレーを被ってるんだが、実際に襲撃する時には黒いレザー製に変わっているのだ。衣装スタッフのミスでしょうけど、薄毛を気にしてかベレー帽を愛用しているゴンサロはいったいいくつベレーを持っているのだろうと思うと微笑ましい。ムリヤリ言ってるわけではないのです。ゴンサロのエスコバルに対する良妻賢母っぷりに好感度が上がるばかりなのです。
※黄色いベレーを被ったゴンサロさん
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