フラーハウス

NETFLIX

ベタな王道あったかファミリードラマはなぜ泣けるのか? 『フラーハウス』

80年代から90年代にかけて大人気を博したシットコム「フルハウス」が、続編「フラーハウス」として20年ぶりにNETFLIXで再開されたことはファンでなくとも耳にしているだろう。シーズン1では赤ん坊の頃からミシェル役を演じたオルセン姉妹を除くかつてのレギュラー陣が総出演し、前作では子供だったDJ、ステフ、キミーらの子育てを描く。長い歳月を経て”ハートフルの権化”が復活した意義とは?

 2016.8.08

大勢いる古くからの大ファンのみなさんの手前、白状させてください。日本で「フルハウス」が本放送されていた頃、筆者はほとんど「フルハウス」をスルーしていました。自分が夢中だった海外ドラマは「ビバヒル」の流れで観るようになった毒っ気たっぷりの「メルローズ・プレイス」や皮肉の効いた「素晴らしき日々」で、正直「フルハウス」は王道過ぎて「毒にも薬にもならぬ」と思っていた。いま思えば若気の至りで恥ずかしい限りです。

 

なので「フルハウス」メンバーのその後についてもゴシップニュースがたまに入ってくるくらいで、映画ファンとしてはオルセン双子よりも『マーサ、あるいはマーシー・メイ』や『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』等で大活躍している実妹のエリザベス・オルセンの方がずっと馴染みがある。要するに思い入れなどほとんどない状態で何の気なしに「フラーハウス」を観てみたら、第1エピソードから大いに笑って泣かされてしまった。一体なぜなのか?

 

【男女の役割がひっくり返った21世紀的逆バージョン】

 

ぶっちゃけると、「フラーハウス」は男3人組が子育てに奔走する「フルハウス」の逆バージョンです。彼らが育てた娘たちが大人になり、「フルハウス」と同じあの家で自分たちの子供たちに手を焼きながらも、温かい絆を育んでいく。なにが変わったって、スマホやインターネットが割り込んではきましたが、番組の本質はビックリするくらい変わっていません。

 

それは20年前の映像をもとに細密に再現したセットや、登場人物のキャラや、主題歌とサンフランシスコの街並みや、番組としてのスタイルが変わっていない、というだけではない。80年代ですら能天気にすら感じられた、人の善意を信じ、どんな辛いことも笑いとハグで切り抜ける疑似ファミリーから否応なしに放たれていたポジティブなメッセージ性が、いささかの疵瑕もなく完全再現されているのです。始まってものの5分で「ああ、このノリ、この感じ」と、20年前にタイムスリップした錯覚にクラクラしました。

 

でも、そこには実は20年の歳月が流れている。ジェシーおじさん役のジェイソン・ステイモスの美貌のキープっぷりは驚異的ですが、かつての大人たちはおしなべて年を取り、DJやステファニーは確実におばさん化しました(キミー役のアンドリア・バーバーも嬉しい例外)。DJは3人の子供を抱えて夫を亡くした設定になり、例えステファニー役のジョディ・スウィーティンが薬物中毒に陥り結婚と離婚を繰り返した現実を知らなくても、彼女たちの天真爛漫な笑顔の裏に“人生”が刻まれているのがわかるのです。

 

【懐古を超えた80年代的ポジティビティのたくましい復権】

 

80年代育ちとして言えることは、80年代とは享楽的な時代でした。国際情勢の軋みは冷戦の鉄のカーテンに隠して見ないフリができたし、バブル景気で浮かれたムードは開かれた未来が待っていると信じ込ませてくれていました。じゃあ未来は暗く、閉塞感に包まれた現代のリアルの中で、テーマや価値観までリバイバルさせた「フラーハウス」は機能するのか?

 

結論を言えば、機能するどころか、パワーアップすらしていると断言できます。こんな時代だからこそ、20年もの歳月を呑み込んだ彼女たちが、ポジティブに、ハッピーに、お互いを思いやって暮らしている姿に胸を揺さぶられるのです。語弊があることは承知で言いますが、彼らは一種のピエロなのではないか? 陽気なメイクをまとっておどけて見せることで、笑いや優しさといった、本当は当たり前のはずの価値観を忘れてはならないと教えてくれているのではないか?

 

もちろん「フラーハウス」が説教臭いなんてことはまったくありません。が、自分自身、なぜなんてことのないルーティーンの連続に何度も泣き笑いしてしまうのかを考えてたどり着いた答えがこれでした。こちらが歳を取った。確かにそれもあるでしょう。ただ、頑固なまでに決して変わらずにいることが、時に素晴らしい価値を生み出すのだと思い知りました。以前からのファンの方々には周知のことでしょう。いま改めて「フルハウス」「フラーハウス」に夢中になっている中年男の戯言だと思ってご容赦ください。

 

内容・あらすじ

タナー家の娘たちを協力して育てあげたダニー、ジェシー、ジョーイたちはそれぞれの道を歩み、ダニーはサンフランシスコの家を売却しようとしていた。家を売る前に夫を亡くしシングルマザーになったD.J.と妹のステファニーが帰ってきた。ダニーは悲しみを乗り越えて子育てに一生懸命なD.J.のために家を譲ることを決意。D.J.とステファニー、そして離婚して一人娘を育てる親友のキミーはタナー家で共同生活を始める。

作品データ

製作年:2016

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:Fuller House

出演:キャンディス・キャメロン・ブレ ジョディ・スウィーティン アンドリア・バーバー ジョン・ステイモス ボブ・サゲット エイブ・クーリエ ロリ・ロックリン マイケル・キャンピオン エライアス・ハーガー ソニー・ニコル・ブリンガス ダシール・メリット マックス・メリット