トランスペアレント シーズン2
amazon
家族の歴史と国の歴史を重ね合わせるのはアメリカが伝統的に得意とするストーリーテリングだが、「トランスペアレント」のシーズン2がこんなにもダイレクトに“歴史”に踏み込んでくるとは思いもよらなかった。
シーズン2は長女サラと同性愛の恋人タミーの結婚式から始まるが、相変わらずフェファーマン一家の面々はジタバタと右往左往していて、結婚生活が始まってもいないのに暗雲が立ち込める。
トランジェンダー道を突き進む家長モートン=モーラの過去も回想シーンによって次々と明かされ、シーズン1では脇役に近かった元妻のシェリーとの夫婦のイビツな物語が掘り下げられていく。またフェファーマン家のユダヤ人という出自も一家の価値観に深く入り込んでおり、ジェンダーというテーマに加えて「人種」という要素がクローズアップされ始めた。サラの結婚が崩壊するのも、ユダヤ系大家族で育ってきたサラがWASPである相手の家族に違和感を持ったことが遠因になっている。
しかし、である。まさかこのドラマがナチス時代のドイツにまで遡って、ユダヤ人弾圧と同性愛者の弾圧という二重の差別が吹き荒れた悲劇の歴史へと踏み込んでいくとは!
シーズン2はいくつもの時代が同時進行する。ひとつは主筋である家長モートンがモーラとして暮らし始めた現代。二つ目はモートンが自分がトランスジェンダーであることを自覚し、女装に手を出していった若き日のエピソード。そして三つ目が、少女時代のアリ役のエミリー・ロビンソンがモートンの母親ローズの若き日を一人二役で演じる1930年代の物語である。
1930年代のドイツのエピソードでは、まだ少女だったローズにトランスジェンダーの兄がいたことが明かされる。ナチスによる1933年の焚書のシーンも出てくるが、実際にナチスの焚書で焼かれた多くの書物は同性愛研究に関するものだった。マグヌスという医師も登場するが、彼こそは「トランスセクシャル」という言葉を生んだ実在の医師マグヌス・ヒルシュフェルト。映画『リリーのすべて』で描かれたリリー・エルベの性転換手術にも関わっていた同性愛研究の伝説的人物だ。
おそらくクリエイターのジル・ソロウェイは、フェファーマン一家のパーソナルな自分探しを掘り下げるならば、トランスジェンダーの苦難と闘争の歴史を外すわけにはいかないと判断したのだ。末っ子のアリはシーズン2でレズビアンとフェミニズムの問題に飛び込んでいくが、ソロウェイの探求眼はさらに遠い先まで向いており、シリーズは三世代に渡る歴史大河ドラマの様相を呈してきた。この不意打ちのスケールアップは本作を二倍にも三倍にも刺激的にしてくれる。
当たり前のことだが、現代は未来にも過去にも繋がっている。とはいえシーズン1であのオープニングを編集した時点からこれだけの構想があったかのと考えると驚嘆しかなく、「トランスペアレント」を「だらしない家族がウダウダ悩むホームドラマ」と思っていた自分には青天の霹靂。ジル・ソロウェイが選んだ旅路は険しく厳しいように思うが、向こうが本気ならこっちも本気で付き合いましょうと褌を締め直したシーズン2である。
※Amazonプライムビデオで配信中
[予告編]
[視聴リンク]
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B01ATUNSZE?ref_=aiv_dp_season_select
内容・あらすじ
夫と離婚したサラは同性愛の恋人タミーとの結婚式を挙げるが、挙式後に怖気づき結婚を破棄してしまう。不安定になったサラは暴力的なセックスへの憧れに目覚める。長男のジョシュは女性ラビの恋人ラクエルに支えられ、生き別れた息子コルトンとの絆を取り戻そうとする。末っ子のアリは幼なじみの親友シドと交際を始め、モートン=モーラは元妻のシェリーと同居を始める。そして高齢で入院しているモートンの母ローズの若き日の出来事が明かされていく。