7年間
NETFLIX
たいていの劇場映画は90分から2時間強の長さに収まるように作られているが、最初からネット配信に特化した映画ならそのような枠に縛られる必要はない。内容にふさわしい長さで面白い作品であれば、30分の短編だろうと4時間の大長編だろうとユーザーは歓迎するはずだ。というわけで今回紹介するNetflixオリジナルのスペイン映画『7年間』は、77分という中途半端な長さの単発映画だが、無駄なく非常によくまとまったサスペンス・ドラマに仕上がっている。
物語はある休日の土曜日、女性ひとりを含む4人の共同経営者がお洒落なガレージ風のオフィスに集まってくるところから始まる。IT系の新興企業と思われる彼らの会社は、今まさに創立以来の危機に直面していた。それぞれスイスの銀行に口座を持つ4人は、脱税した“黒い金”を私的にプールしていたのだが、それを国税局に嗅ぎつけられてしまい、月曜日に強制捜査が入りそうな見込みなのだ。しかも悪質な犯罪ゆえに罰金を支払っても解決できず、逮捕者は懲役7年を覚悟しなくてはならない。
かくして緊急会議を開いた彼らがたどり着いた結論は、4人のうちひとりがすべての罪を被り、他の3人と会社を守るということ。しかし、まだ大きな問題が残されている。はたして誰が生け贄になるのか。クジ引きで決めるのが一番公平なやり方だが、「クジで刑務所に入れられるなんて真っ平だ!」という意見が出てすかさず却下。やがて夜の10時半、仲裁人の役目を務める初老の男がオフィスに到着し、テーブルを囲んで生け贄を決めるための討議が始まる。
緊迫した人間模様の成り行きをワンシチュエーションで描いた映画はいくつもあるが、登場人物の誰かが拳銃や毒物を持ち出したりして殺し合いに発展するようなスリラーではなく、あくまで言葉の応酬で状況が移り変わるディスカッション・ドラマになっているところが本作のミソ。仲裁人の初老男がなかなか老獪なキャラクターで、「君たちは自分の意思で参加し、不快ならいつでも去ることができる」「聞く耳を持って、お互いを尊重する」「私は中立の立場で、決定権は君たちにある」という3つのルールを定める。この“ゲームの規則”に沿って、4人が順番に自らの意見を述べていくのだ。
会社の長期的戦略を練るCEOのマルセル、財務担当のベロニカ、クライアントの接待を受け持つカルロス、技術開発部門の責任者ルイス。4人はこれまでいかに自分が会社に貢献してきたかを主張したのち、他者への攻撃を開始する。仕事のみならず相手のプライベートの領域にまで踏み込んだその攻防は、日頃のたまりにたまった鬱憤を爆発させる非難合戦へと発展し、当人にとっては屈辱的な秘密も暴露されていく。クライマックスではついに生け贄が絞り込まれるのだが、今度は人生を7年間も棒に振る“見返り”をめぐって醜い応酬が繰り広げられる。ある意味、相手の心をずたずたに切り裂く言葉は拳銃やナイフよりも恐ろしい。
欲望とエゴが激しくぶつかり合い、人間という生き物のわかり合えなさを描く内容だけに、決して爽快な気分になれる映画ではない。しかし登場人物の弱さや愚かさを容赦なくあぶり出し、そこにかすかな哀しみを添えた点にも本作の妙味がある。そしてハイテンションの会話バトルの果てには、このうえなく居心地の悪い“沈黙”が待っている。
Netflixオリジナル映画
『7年間』好評ストリーミング中
https://www.netflix.com/jp/
[予告編]
[視聴リンク]
https://www.netflix.com/title/80095197