ビースト・オブ・ノー・ネーション

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あなたは野獣にならないと言い切れるか? 『ビースト・オブ・ノー・ネーション』

『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』シーズン1のキャリー・ジョージ・フクナガが7年をかけて完成させた、少年兵の悪夢のような現実(もしくは現実のような悪夢)。

 2016.11.29

むせ返る緑と土の匂い。
滴り落ちる汗の匂い。
立ち昇る火薬と煙の匂い。
そしてサトウキビのように甘く
ヤシ酒のように嫌な死体の匂い。

 

少年はほんの少し前まで
向けられた銃口の側に立っていた。
しかし今は銃口を向ける側に立っている。

 

もう少し前は両親や兄弟と普通に暮らし
友達とつるんで空っぽのテレビを持ち歩き
恋愛ドラマやカンフー映画の真似をして
「空想テレビだ」と言って見せては
小遣いを得ていた。
今はアサルトライフルや鉈を持ち歩き
どこの誰ともわからぬ現実の敵を殺しては
自分のいる場所を得ている。

 

なぜこうなってしまったのか
神様にいくら聞いても
何も答えてはくれない。
しかしそれは答えてくれないのではなくて
少年が聞きとれなくなっただけなのかもしれない。

 

なぜなら今、少年は〈野獣〉だからだ。

 

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『ビースト・オブ・ノーネーション』は現代の紛争地帯において捕虜や誘拐(もしくは自主的な参加)により集められた子供に軍事訓練を施し使役される少年兵、いわゆる「チャイルドソルジャー」についての映画です。

 

しかしこの作品はリアルな戦争を描いているとともに、主人公の少年の頭の中にいるようなモヤーンとした感じを見るものに与えます。

 

映画の舞台は一応西アフリカの某国という設定になっていますが、その内戦の詳しい状況などは観ていてもあまりよくわかりません。
政府軍と反乱軍と武装集団が入り混じって戦う中で観客は主人公の少年アグーと同じ視点で家族や友達と笑ってたと思ったら近所の住人に嘘の告げ口をされ、銃殺から逃げたら今度は武装集団に捕らえられ喰われるか兵士になるかの選択を迫られ気が付けば初めて人を殺している・・・というように目まぐるしくぼんやり移り変わる現状に振り回されるのです。

 

しかもその武装集団は「指揮官」と呼ばれる戦争のプロといった風格の男に率いられ多くの現代兵器を使用した戦闘をしながら(日本製のピックアップトラックに乗ってる)、兵士になるための通過儀礼の呪術を施したり弾丸に当たらないためのおまじないをかけたりするようなカリスマを頂点としたカルト的集団として描かれており、銃撃の音と土着的なリズムの唄が交互に響くなかでアグーは文字通り「心」も「体」も指揮官に捧げることを強いられるのです。

 

アグーは「殺されないために殺す」生き方を選ばざるを得なくなり、非戦闘時に持っていた人間的な感情は(麻薬の力も借りつつ)しだいに書き換えられ、「殺す」ことと「生きる」ことが同義となっていきます。
映画の中盤での戦闘でアグーらが建物に突入し殺戮とレイプをおこなう約3分半ワンカットのシーンは即物的であると同時に見たくなかった悪夢に落ち込んでいくような凄みを感じます。

 

しかしそんな終わりの見えない地獄めぐりにも生臭く人間的な更なる「現実」が押し寄せ、少年は再び選択を迫られる・・・・

 

 
監督のキャリー・ジョージ・フクナガは大傑作のドラマ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』シーズン1を手掛けており(こっちはHuluで配信中)、今後もきっと色々仕掛けてくれそうな監督です。

 

指揮官役のイドリス・エルバは『パシフィック・リム』の漢気あふれる司令官とは真逆の俺様司令官を演じ強い印象を残しますが、アグー役のエイブラハム・アタは物売りしてた普通の少年だったのがいきなりこの映画の主役に抜擢されたらしく、まさに「空想テレビ(映画)」が現実になったような素晴らしい演技で、『スパイダーマン』の新作に出演するらしいなんて情報も流れています。

 

Netflix限定で公開されているオリジナルながらベネチア国際映画祭でワールドプレミアをおこなうなど劇場公開作品と本気で勝負出来る『ビースト・オブ・ノーネーション』、観られるうちに観ておくべき作品です。
 
 
※Netflixオリジナル映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』好評ストリーミング中
https://www.netflix.com/jp/
 
[予告編]

 
[視聴リンク]
https://www.netflix.com/title/80044545

作品データ

製作年:2015年

時間:137min

原題:BEASTS OF NO NATION

監督:キャリー・ジョージ・フクナガ

出演:イドリス・エルバ エイブラハム・アタ カート・エジアイアワン ジュード・アキューダイク