13th -憲法修正第13条-

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どこかで道を踏み外してしまったアメリカという夢の大国。『13th ー憲法修正第13条ー』

第89回アカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート。 白人だらけのオスカーを彩るカラフルな”タグ”。#BlackLivesMatter

 2017.2.11

民族、文明、信仰、肌の色の違いによる人種差別。多彩な色で構成された移民国家アメリカの黒い歴史。

奴隷制廃止の起点となった南北戦争から150年が過ぎた。その間、対策が講じられなかったわけではない。にもかかわらず形を変えて続く事実上の奴隷制。アメリカはなぜ今もその足かせを外すことができないのか。

 

そこには倫理や道徳だけでは説明のつかない原因があった。

いや「原因」とはいえない。それは意図せぬ「原因」が招いた不本意な「結果」ではなく、確固たる「目的」をもって達成された「成果」だったからだ。つまり「アメリカは意図して奴隷制を続けていた」のである。まじで。

しかも、恒久的な奴隷制の撤廃を求めたリンカーン大統領が必死の思いで成立させた『合衆国憲法修正第13条』の、ほんの小さな〈抜け穴〉を濫用することで恒久的な奴隷制が保たれているという皮肉。あの長く苦しい内戦、リンカーンの渾身のがんばり(そしてそれを演じたダニエル・デイ=ルイスの熱演!)はいったい何だったのか。

 

黒人やラティーノなどの有色人種にフダをつけ、刑務所を経由した奴隷労働ビジネスに組み込んでおくこと。「産嶽複合体」。それは建国以来、アメリカが「アメリカ」を運営していくために必須とされてきたスキーム、メソッド、いやもしかしたらそんな上辺の話ではなく、建国のレジストリに書き込まれたアメリカの構造そのものだったのかもしれない。まじか。

 

“黒人を恐れよ!” 本作に出てくるニクソンにレーガン、ブッシュ父、ビル・クリントンはおろか、ついこないだアメリカの向かうべき方向性を二分して激しく争っていたはずのヒラリーとトランプさえも、その若き日に意を同じく口をそろえる一連の映像の禍々しさ。みんなおんなじ。タカ派/ハト派/共和/民主の区別なく、歴代為政者たちがこぞって同じ方向を向き、メディアの力で国民を扇動していく光景はひたすら恐ろしい。

 

しかーし!(ここからちょっと我々に引き寄せますよ)

じつは映画・ドラマファンにとっても他人事では済まないのがこの話題。映画ファンの聖典D・W・グリフィスによる『國民の創生』が白人至上主義の異常集団KKK(クー・クラックス・クラン)を英雄視してから100年経つが、白人だらけの候補者が「#OscarsSoWhite」と騒がれ、ボイコットが相次いだ映画の祭典アカデミー賞もほんの昨年の出来事だ。

また、麻薬こそが社会悪の根源だというイメージが刑務所労働ビジネスの発展のためにしつらえられたものだと言われれば、思うところもある。元来、ハリウッド映画の悪役は、時の社会不安をセッティングするものだと言われた。冷戦時代の脅威は「ソ連」、じきにストリートには「麻薬」がはびこり、「テロリスト」といえばアラブ系だった。鼻息荒く知った顔して映画館から出てきたオレたちは、映画をネタに片棒を担がされてはいなかったか。

 

暗澹たる気持ちになりました?
しかしそこで、煮詰まった頭をシンプルにして思うこと。それがアメリカの「構造」であるならば、変えることは出来る。絶えることのない排外や人種差別が、原罪レベルの「人間の業」なら諦めたくもなるが、ヒトがつくった「仕組み」なら、意気込みひとつで変えていくことって、やっぱ出来るんじゃないの? 修正第13条の〈抜け穴〉は、気づいた時点で埋められている。デュヴァーネイ監督も言うように、気づくことが第一歩だからだ。それが、思いの外ポジティブなリリックを奏でる本作のエンディング・チューンに導かれた私の青臭い持論です。

 

リンカーンの本懐は知る由もないが、大きな分岐点であった南北戦争から見つめ直し、立場の異なる両極の主張に耳を傾け、その後の歴史を辿りながら、どこかで道を踏み外してしまったアメリカという夢の大国を、今からでもやり直すことはできないだろうか。デュヴァネイ監督が唱えるのは「改革よりも再構築を」だ。そんな模索を促すのも、今年のオスカー候補に挙がった本作や、昨年のタランティーノ作『ヘイトフル・エイト』、やっぱり映画の力なのである。

反省を踏まえてか、各演技賞の候補枠すべてに黒人他有色人種を配してきた今年のアカデミー賞において、『13TH −憲法修正第13条−』は何色に輝くのか。劇場・配信の枠を超え、映画ファンとして見守りたい。

 

社会派ぶる必要はない。そもそもが、世情に晒され、社会を映す鏡として映画がある。そのキツい反射に目をそむけなければ、おのずと今度は映画が社会にコミットしていく。映画の本領発揮である。

 

※Netflixで独占配信中

【予告編】

 

【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80091741

作品データ

製作年:2016年

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:13TH

監督:エイヴァ・デュヴァーネイ