伝説の映画監督 -ハリウッドと第二次世界大戦-
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現役監督5人×殿堂入り監督5人、最強の“戦争と映画”史講義 『伝説の映画監督 -ハリウッドと第二次世界大戦-』
フォード、ワイラー、ヒューストン、キャプラ、スティーヴンス。文字通り“伝説の映画監督”である5人は、第二次大戦中にアメリカ軍に志願し、映画を通じて戦争を勝利に導こうとした。果たして戦争は彼らに何をもたらし、何を奪ったのか? 映画史における怒涛の一時代をレクチャーしてくれるのは、スピルバーグにコッポラ、ギレルモ・デル・トロ、ポール・グリーングラスとローレンス・カスダン。超豪華な講師陣による最強の映画講義で、Netflixが映画学校と化す!
2017.6.03
筆者は映画ライターを名乗っているくせに、映画史におけるマスト的な傑作をいくつも観こぼしている。例えばジョン・フォードなら『駅馬車』を観ておらず、ジョン・ヒューストンなら『黄金』を観ていない。とても恥ずかしいことだ。
だから、フォード、ヒューストン、フランク・キャプラ、ウィリアム・ワイラー、ジョージ・スティーヴンスと綺羅星のような名監督たちが、第二次大戦が始まるとハリウッドでのキャリアをなげうつ覚悟で軍に志願したことも知らなかった。例えばヒューマンドラマの最高傑作とも言われる『素晴らしき哉、人生』を撮ったキャプラは、戦時中には“日本がいかに世界征服を企む狂信的な集団なのか”を米兵に教え込むプロパガンダ映画を作っていたのだ!
この興味深い史実を詳細に、そしてドラマチックに教えてくれるのが約1時間の3つのエピソードからなる本作。ジャーナリストのマーク・ハリスの著作『Five Came Back』を元にしており、監督は映画関連のドキュメンタリーを数多く手がけてきたロラン・ブーズローだが、何よりも目を惹くのは、ドキュメンタリーで取り上げられる巨匠たちの大ファンを自認する現役の映画監督たちが案内人を務めていることだろう。
第二次世界大戦マニアとしても知られるスティーブン・スピルバーグを筆頭に、『地獄の黙示録』のフランシス・フォード・コッポラ、ジェイソン・ボーン・シリーズや『グリーン・ゾーン』のポール・グリーングラスと納得の顔ぶれ。ローレンス・カスダンにはあまり戦争映画のイメージはないが、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』の脚本家でもあり、アレもまあ戦争映画と捉えられなくはない。変わり種なのがギレルモ・デル・トロで、ホラーでも日本のアニメや怪獣映画でもなく、フランク・キャプラのファン代表という体で出ているのだ。
それぞれに一時代を築いた名監督であり、筋金入りの映画マニアである彼らが尊敬する大先輩たちについて語りまくる。それもあまり光のあたることのない戦時下でのプロパガンダ時代について。リスペクトを表明しつつも過剰に持ち上げることはせず、批判すべきは批判するというガチのトークなのだから、面白くならないわけがない。
戦争前の時点ですでにハリウッドの著名監督だったフォードやキャプラらが、第二次大戦に際して戦争に参加しようと考えた理由はそれぞれだ。ある者は栄誉を求め、ある者は義憤に燃え、ある者はヒトラーの脅威をいち早く察して「この戦争に映画を役立てたい!」と思うに至る。それぞれが、時に協力し、特に反目しつつ、それぞれにできることを模索していく。その道筋は常に多難。彼らにとって「ドキュメンタリー映画」すら初めての経験で、暗中模索の繰り返しだった。
とりわけ印象的だったのが、キャプラがナチスドイツのプロパガンダ映画『意志の勝利』を観て、「この戦争に負ける!」と戦慄したエピソード。ドイツの女性監督レニ・リーフェニュタールが創り上げた映像がもたらす高揚感と陶酔感を前に、改めて映画のパワーと恐ろしさを思い知ったというのである。以降、彼らにとって『意志の勝利』を超えることが至上命題になったことは想像に難くなく、彼らの「映画を使った戦争」が観客を扇動するテクニックを磨き上げ、その修練の先が現在の娯楽映画にまで繋がっていることは、21世紀に生きるわれわれも意識しておくべきことではなかろうか。
いや、しゃべり過ぎた。細かいことはこの番組を観てもらうのが一番だ。とにかく彼らの物語は、ヘミングウェイやロバート・キャパといった戦争にまつわる歴史的作品を残した偉人たちに勝るとも劣らない。そして、彼らが戦争の姿を「映画」で伝えてくれたことは、われわれにとっても大きな遺産だった。普段目にする「戦争映画」のモチーフや表現と原点とも言うべき映像を、5人が命がけで作り上げた映画の中に見出すことができるのだ。
このドキュメンタリーを観ると、次々と紹介される5人が戦時下で撮った作品への興味がこんこんと湧いてくる。Netflixはそんな好奇心を刺激されたわれわれを抜かりなく待ち受けていて、以下の関連作12本(2017年6月時点)も配信している。「Netflixが映画学校と化す!」という物言いは、もはや比喩でもなんでもない現実なのである。
『ミッドウェイ海戦』(1942年/18分/ジョン・フォード監督)
『戦争の序曲~大戦前夜』(1942年/51分/フランク・キャプラ監督)
『秘密工作員:敵地の行動規範』(1943年/61分/ジョン・フォード監督)
『なぜ我々は戦うのか:バトル・オブ・ロシア』(1943年/82分/フランク・キャプラ、アナトール・リトヴァグ監督)
『第二次世界大戦:アリューシャン列島の記録』(1943年/44分/ジョン・ヒューストン監督)
『メンフィス・ベル:空飛ぶ要塞』(1944年/39分/ウィリアム・ワイラー監督)
『チュニジア戦線の勝利』(1944年/76分/フランク・キャプラ、ジョン・ヒューストン、ヒュー・スチュワート、ロイ・ボールディング監督)
『汝の敵 日本を知れ』(1945年/62分/フランク・キャプラ、ヨリス・イヴァンス監督)
『サン・ピエトロ』(1945年/32分/ジョン・ヒューストン監督)
『ナチスの強制収容所』(1945年/58分/ジョージ・スティーブンス監督)
『光あれ』(1946年/57分/ジョン・ヒューストン監督)
『サンダーボルト』(1947年/41分/ウィリアム・ワイラー、ジョン・スタージェス監督)
※Netflixオリジナルドキュメンタリー
『伝説の映画監督 ―ハリウッドと第二次世界大戦―』
独占配信中。
【予告編】
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80049928