モーツァルト・イン・ザ・ジャングル:シーズン1
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コッポラ一族の従兄弟同士でもあるローマン・コッポラとジェイソン・シュワルツマン、そして『アバウト・ア・ボーイ』のポール・ワイツ。この3人がクリエイター(脚本、監督も)を務める音楽コメディと聞いて、なんだか面白そうだと感じてもらえないか。自分は感じました。そしてお仲間がいるはずだと信じています。
ぶっちゃけローマン・コッポラは実妹ソフィア・コッポラに比べて成功している印象があまりないが、ウェス・アンダーソン、ジェイソン・シュワルツマンと共同で『ダージリン急行』の脚本を書いていることを思えばやはり注目せずにいられない。ポール・ワイツは最近は精彩を欠いていた感はあったが、得意とする“ハートのあるコメディ”に帰ってきたのだから期待せずにいられないだろう。
『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』はオーボエ奏者ブレア・ティンドールが書いた同名小説をベースに、現代のニューヨークを拠点にする架空の名門クラシックオーケストラ「ニューヨーク交響楽団」の舞台裏を赤裸々に描いた群像劇だ。新指揮者として招かれる若きカリスマをガエル・ガルシア・ベルナル、追い落とされるベテラン指揮者をマルコム・マクドウェル、その愛人でオーケストラのチェロ奏者をサフロン・バロウズが演じており、クリエイター陣に負けず劣らぬ豪華キャストが名を連ねている。
ドラマの内容といえば、オーケストラ内の権力争いと愛憎のもつれ、運営費集めに奔走する経営陣の苦悩、一流奏者を目指す音楽家の生活苦など、エレガントでハイソサエティなイメージを覆す業界ネタのオンパレードで、一種の暴露ものだと言っていい。オーケストラの一員になることを夢見る若きオーボエ奏者ヘイリー(ローラ・カーク)が狂言回しの役割を果たし、彼女が次々と厳しい現実にさらされ珍騒動に翻弄される“地獄めぐり”の物語でもある。
ところが、だ。さぞやシニカルでブラックなコメディだろうと思って観ていると、曲者だらけの登場人物たちの誰もがやたらと魅力的に見えてくる。とりわけナルシストで情緒不安定な新指揮者ロドリゴを演じたガエル・ガルシア・ベルナルは本作でゴールデン・グローブ賞を受賞したが、ともすればイヤな奴に描かれがちなポジションをピュアでチャーミングに妙演していて、劇中の楽団員ならずとも好きにならずにいるのは至難の業だろう。
ロドリゴ以外にもひと癖もふた癖もある厄介なキャラクターばかりがだが、誰もが結局は「音楽が好きでたまらない」ものだから、気持ちのいい明るさに包まれていてつい応援してしまう。1エピソードが30分弱でサクサク進んでいくのも好ポイントで、気がつけば次々と観進めてしまっていた。
音楽業界の内幕モノなら『セッション』のようなギスギスした作品も面白いが、作り手の温かいユーモアが感じられる『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』もいい意味で中毒性がある。クラシックへの入門編としても最良のシリーズですよとなんだか褒めまくってしまっているが、シーズン1を観終えた現時点でさっぱり欠点が見つからないのが本音である。
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内容・あらすじ
ベテラン指揮者トーマス・ペンブリッジ(マルコム・マクドウェル)が勇退し、クラシック界を席巻する若き天才指揮者ロドリゴ(ガエル・ガルシア・ベルナル)を迎えることになったニューヨーク交響楽団。ロックスターのようなに着飾ったロドリゴの予測不可能なふるまいに経営陣は戸惑いを隠せない。一方、一流オーケストラの団員を夢見る若きオーボエ奏者のヘイリー(ローラ・カーク)は、ブロードウェイミュージカルのバイトで知り合ったチェロ奏者のシンシア(サフロン・バロウズ)からロドリゴがオーディションを開催すると知らされて会場に駆けつけるが……。