Jimmy~アホみたいなホンマの話~
NETFLIX
©2018YDクリエイション
「芸人」や「お笑い」を扱った映画/ドラマが、腹を抱えるほど可笑しいというケースは稀だと思っている。物語として語る以上、そこには泣きも笑いもひっくるめた生き様や、人を笑わせる「芸」の裏側が描かれることになり、必然的にユーモアよりもペーソスに寄っていく。典型的な例が(これまたNetflixオリジナルとして発表された)センチメンタリズムに満ちた「火花」(2016)だろうし、さらに狂気に寄ってみせたのがロバート・デ・ニーロの『キング・オブ・コメディ』(1982)やジム・キャリーの『マン・オン・ザ・ムーン』(1999)であろう。
この「Jimmy~アホみたいなホンマの話~」もまた、外側だけのことを言うなら人情喜劇であり、テイストとしては朝ドラに近い。不器用で、周囲からはバカにされる、一見なんの取り柄もない若者が、若き天才芸人・明石家さんまに「オモシロ」を見出されたことで、期せずして芸人になり、成り行きで画家の才能を開花させていく。世に広く伝わっている“ジミー大西”のパブリックイメージが、ほんのりと苦くてユーモラスな王道青春ドラマになった、という印象だ。
毎話に挿入される明石家さんまとジミー大西本人のトークコーナーで、さんまが「俺らはこんなにカッコよくないけど、ほぼ実話やな」と言う。この言葉はこのドラマの本質を言い当てている。つまり、実話の映画化/ドラマ化の大半がそうであるように、ビジュアル的には美化され、物語としては山場を交えて整理整頓され、限りなくフィクション風に仕立て上げたノンフィクション。お茶の間が楽しめるように味付けされた、オーソドックスな連続ドラマだ。
それがアレンジされた「キレイごと」であることは、プロデューサーである明石家さんまを含めた製作陣はよくわかった上での「敢えて」ではなかったかと思う。というのも、あくまでもひとつひとつの表現は面白おかしいお茶の間ドラマのひな形に収まっているのだが、毎回登場する明石家さんまとジミー大西のトークパートや、劇中のジミー(中尾明慶)の相談相手となるお月さま(声はジミー大西)、そしてネタバレになるから伏せておくが、終盤にやってくる途方もないちゃぶ台返しなど、随所に「現実」を介入させることでドラマパートの「虚構」感をアップさせていくからだ。
この「これは虚構である」という安心感のおかげで、二の線の玉山鉄二が演じる明石家さんまは絶妙に「フィクションの明石家さんま」として成立しているし、間寛平やぼんちおさむといった吉本のスターたちもまた絶妙にハンサム化されている。(唯一、真逆のアプローチなのは六角慎司演じるMr.オクレの完コピっぷりで、これまたMr.オクレに似れば似るほど虚構性が増すという面白い逆転現象が起きていた)
おそらくドラマの筋書きを追うだけなら(少なくとも最終回の終盤までは)予定調和の青春ドラマと言っていい。しかし、そのドラマ全体を載せている皿を、さらに皿回し芸人が回しているような、なんとも奇妙な揺らぎを感じる作品である。
そして筆者が、特に序盤において魅力を感じたのは、このドラマがリアルを志向しなかったことで生まれた、ある種のユートピアとしての「お笑いの世界」の姿。このドラマが描いている時代は、まだギリギリのところで「お笑いなんてマトモな人間がするものではない」という価値観が生きていた。だからこそ「まとも」からハミ出した人間に対して優しく、他と違っているということが、例え欠点であっても、個性として許容され、時には才能として称賛された。そんな価値観の象徴が“ジミー大西”であり、その伝統を守ろうとしたのが明石家さんまだった、ということになる。これって要するにダイバーシティ(多様性)そのものではないか。いや、そんな難しい言い方をしなくとも、このドラマの「お笑いの世界」はとても懐が深く、他者にもバカにも寛容で、そして笑いと喜びに満ちている。
むろん現実はそんなキレイごとだけで済まないのは百も承知だ。しかしそれでもなお、本作が描く「お笑いの世界」は、いまは見つけることが難しくなった「希望」と「可能性」でキラキラと人を惹きつけるのである。
※Netflixオリジナルドラマ『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』、独占配信中
©2018YDクリエイション
【予告編】
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80138672
内容・あらすじ
子供の頃から周囲に馴染めず、バカにされて育った“大西”は、高校野球部の顧問の紹介で吉本興業の雑用係に雇われる。失敗ばかりで怒られてばかりのジミーに注目したのは、若手のトップをひた走る明石家さんま。笑いの才能にあふれ、なにかと目をかけてくれるさんまを大西は心から慕い、弟子入りを志願するが、さんまは弟子は取らない主義だとかたくなに突っぱねる……。