半分ノ世界
ShortCuts編集部
(C)UULA
西日本豪雨災害に対する寄付を、映像作家たちの作品の視聴権を購入するというスタイルで募る「DONATION THEATER」。80人を超える作家たちが作品をエントリーし、すでに80万円を超える寄付が集まっている。
まだなお作品も寄付もが増えるなか、俳優・斎藤工が映画監督・齊藤工としてアップした作品が本作だ。
2014年に製作され、「セルビア日本交換映画祭」で「アイデンティティ賞」を受賞したこの作品は、2000枚限定でDVDリリースされ、ソフトバンクのスマホ向けに配信された。
限られた形で公開され現在はレンタルもない秀作が、「DONATION THEATER」にて視聴可能となった。
わずか16分という短編ながら、今回の企画にふさわしい内容だと感じた。
美術部の女子高校生はかけがえのない存在である母を失い、同時に絵を描く意味をも失ってしまう。失望した世界は「半分しか受け入れられない」と、眼帯で片目を封じる。
そんなある日、学校の教室の机の上に落書きが。
定時制の授業で同じ机を使う「誰か」が描いたその絵は、彼女に語りかける。
「俺も半分だけど、自分から閉ざすなんて考えられない」と。
違う時間に同じ机を共有する2人。
喪失感を知っている2人。
絵をコニュニケーションツールとする2人。
机の上に描かれる絵は、2人によって日々描き直され、会話となって動き出す。
カンバスに背を向けたはずの彼女は、彼が動かすその絵の変化を楽しみにし始め、夢中で描き続ける。
やがて「俺の半分」の意味を理解した彼女は、いつの間にか再生しつつある自分に気づいていく。
なんとも柔らかく優しい手触りの短編。
人の手で描かれ、残るけれど変化する机の落書きは、SNSにはない体温を感じるアナログな媒体として機能する。
しかも、数文字のテキストが秒単位でやりとりされる速度ではなく、1日1会話という「待ってくれるスピード」「待ち遠しさを感じられるスピード」で交わされる。
そして気づけば、失望したはずの明日に希望を持っているという小さなマジック。
今回の災害での喪失は計り知れない。
大切な人を失った人も多いはず。
そんなにすぐには立ち上がれないかもしれないけれど、この作品のメッセージを齊藤監督のエールだと読み取っていい、と私は思う。
強引かもしれないけれど、そうなんだと思う。
※DONATION THEATERで2018年9月15日まで配信中(参加受付は9月7日まで)
※DONATION THEATERへのご参加はこちらから→https://donation-theater.eiga-infra.org/
©UULA
【予告編】
【視聴リンク(DONATION THEATER公式サイト)】
https://donation-theater.eiga-infra.org/product/takumi_saitoh/285577262/
内容・あらすじ
母を失った女子高生は、それまで描いていた絵を描けなくなり心を閉ざす。 ある日、教室の机に描かれた落書き発見し、その絵が日々、変化していることに気づく。 思い切って、その落書きに絵で応えてみると…。