ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス

NETFLIX

過去と現在が激しく交差するゴースト・ファミリー・ストーリーは圧巻のクオリティ‼ 『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』

怪奇小説の古典的傑作『山荘綺談』をベースに、『オキュラス/怨霊鏡』のマイク・フラナガン監督が描き出す生と死のホラー・ストーリー。その圧倒的クオリティの本質とは?

 2018.10.24

ホラー映画ファンの間では、今もなおカルト的人気を誇るロバート・ワイズ監督作『たたり』(‘63)。その原作であるシャーリイ・ジャクスンの古典的恐怖小説の傑作『山荘綺談(別題:丘の屋敷)を、大胆な脚色によってまったく新たなホラー・ストーリーとして生まれ変わらせたのが、Netflixオリジナル・ドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』である。原作の様々な要素は人物の名前や細かな設定などに継承されているものの、原作では幽霊屋敷に集う人々が他人同士であるのに対し、今作で屋敷に住むのは父母と兄弟の一家であり、まさにそれこそが物語のテーマに深く関わる改変となっている。 
 
The Haunting of Hill House子供時代、丘の上に建つ古びた洋館「ヒルハウス」に父母と共に暮らしたクレイン家の5人の兄弟。洋館での心霊体験を元にした本でベストセラー作家となった長男スティーヴン(マイケル・ユイスマン)、夫と共に葬儀社を経営する長女シャーリー(エリザベス・ルーサー)、感覚の鋭い心理カウンセラーである次女テオ(ケイト・シーゲル)、薬物依存症に苦しむ次男ルーク(オリバー・ジャクソン・コーエン)、そしてルークの双子として生まれた一番末の妹ネル(ヴィクトリア・ペドレッティ)。 
 
物語は、それぞれ問題を抱えながら生きる彼ら5人の現在と、かつて過ごしたヒルハウスでの遠い日々、その中間の時代である近い過去という複数の時間軸を激しく行き来しながら展開していく。成長した現在と子供時代を往復する構成といえばスティーヴン・キングの長編小説『IT』を連想するが、今作の全エピソードを監督しているマイク・フラナガンは、やはりキングの原作を映像化したNetflixオリジナル作品『ジェラルドのゲーム』などで知られるホラーの才人であり、今作にはキング作品の影響もそこかしこに感じられる(他の監督作に『オキュラス/怨霊鏡』(‘13)『サイレンス』(‘16)『ソムニア/悪夢の少年』(‘16)など)。 
 
The Haunting of Hill Houseさて、ドラマはまず「幽霊屋敷もの」の定石通り、クレイン家の子供たちが洋館で出会う怪異の描写で幕を開ける。末っ子ネルの寝室に現れる首がねじ曲がった女性の亡霊「首折れ女」、長女シャーリーが悩まされる開かずの間「赤い部屋」の悪夢、ルークが自然と描いてしまう得体の知れない怪物の絵。こうした子供時代の屋敷の怪異が描かれる一方で、ドラマの序盤では1話に1人ずつ主人公を定め、大人となった兄弟たちが各々直面している苦しみが過去の出来事と共に語られていく。 
 
ホラー版『ブラザーズ&シスターズ』などと言ったらふざけすぎかもしれないが、『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』は、古典的な幽霊屋敷ものの枠組みを借りた、紛れもない現代の家族劇であり人間の内面に迫る優れた心理ドラマだ。描かれるのはよくあるアメリカン・ホラーのような即物的ショックではなく、恐怖の根源そのもの、つまりは大切な人を失う恐ろしさ、コントロールできない自分の衝動、愛情が逆に人を傷つける悲劇、そして誰もが結局は逃れられない「死」自体である。幽霊とは、どこか未知の場所から訪れる異物などではなく、人間の心にある暗い部分の投影だという主張は今作の底流に流れる本質的テーマでもある。 
 
圧巻なのは、異なる時間軸における各登場人物の行動をパズルのように組み合わせた切れ味抜群の演出で、そのボルテージは「首折れ女」の心底恐ろしい正体が判明する第5話と、ある人物の葬儀で兄弟と父親が一堂に会する第6話で最高潮に達する。葬儀会場をまるで舞台劇のように使い、いくつかの長回しのカットを組み合わせながら過去と現在を自在に行き来し、全員の葛藤とぶつかり合いを描き切ってみせた第6話は特に素晴らしく、違う時代や場所をひとつの場面のなかに力技で収めてしまう、映像作品ならではの快感に満ちている。 
 
The Haunting of Hill Houseまた、物語が人間の内面に寄り添っていることは確かだが、肝心の恐怖描写も一級品であることはぜひ言っておきたい。第1話で長男スティーヴンが帰宅した自分の部屋でそこにいるはずのない人物を目撃してしまう鳥肌が立つシーンや、幼いルークが深夜の屋敷を徘徊する異様に背の高い男の亡霊から隠れる場面など、単なる「びっくり」ではない多彩な恐怖演出を1エピソードに1回は盛り込むサービス精神はさすがフラナガン監督(笑)である。 
 
子供時代、父親が5人の子供を連れ、母親を残して屋敷から逃げ出した一夜にいったい何があったのか? これ見よがしのどんでん返しこそないが、全10話を観終わる頃には、各エピソードに登場した場面それぞれの「本当の意味」が明らかとなり、もう一度、1話から順に見返したくなるだろう。今作は2018年のベスト・ドラマのひとつとなることは確実。ホラーものは苦手で…と敬遠する方も多いと思うが、エンディングには「生の苦痛を乗り越えた先にある微かな光」が待っていて、後味は意外にも温かい。ホラー嫌いというだけでスルーするのは実にもったいないと思う。
 
※Netflixオリジナルシリーズ
『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』
 シーズン1独占配信中
 
【予告編】

 
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80189221

作品データ

製作年:2018年

製作国:アメリカ

言語:英語

原題:The Haunting of Hill House

原作:シャーリイ・ジャクスン

監督:マイク・フラナガン

脚本:マイク・フラナガンほか

出演:ティモシー・ハットン マッケナ・グレイス カーラ・グギーノ ヘンリー・トーマス   マイケル・ユイスマン エリザベス・ルーサー ケイト・シーゲル