ジョン・レグイザモのサルでもわかる中南米の歴史
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歴史講座を標榜するこの公演(原題はLatin History For Morons)、薄暗い照明の下に見える舞台のセットは、中央に大きめの黒板が置かれているほかは、古びた事務机やキャビネット、あとは積まれた本の山がいくつか隅に点在しているだけの、どちらかといえば殺風景な場所。つまりここはレグイザモ教授の研究室ということらしい。
そこにくたびれた三つ揃いのスーツを着込み、雑多な小道具が放り込まれた木箱一つを抱えてせっかちそうに現れたレグイザモは、本人のキャラのまま、レグイザモ自身の中2の息子が、学校でいじめられた話を始める。
ラテン系アメリカ人の家に生まれたことでクラスメートに差別にあったという息子。彼と対話するために、レグイザモは自らの出自と向き合い、自分と家族のアイデンティティを確認すべく、マヤ文明、アステカ王国、インカ帝国の興亡からスペインによる支配、独立、戦争、といった中南米の歴史を辿り始める。ときたま自身の日常や、それをとりまく現代のアメリカ社会にも言及していく。舞台上の黒板は様々な言葉や図で埋められていくが、レグイザモの話はやがて、そこからも逸脱していく――。
レグイザモ教授は軽妙に、もちろん笑いもふんだんに交え、ゲットー仕込みの汚い言葉もはさみつつ、語り続ける。また、話の流れで激しくも華麗なダンスもたびたび披露し、スーツが着崩れていくのも意に介さず、先住民や、アステカの王を次々と演じる。1時間半後、ブロードウェイのベテランコメディアンの達者な芸を、笑い、感心しながら堪能しきったときには、長いラテンアメリカの歴史と彼の息子の成長とを、同時に見届けている。これはまさにラテン人の演じる大ネタ落語だ。
落語とか好きな人で、でもいわゆるアメリカ的なスタンダップ・コメディは、メッセージが直接過ぎてちょっと馴染めない、みたいな人におすすめしたい。
余談だが、「俺の若い頃は」と息子に語るくだりで、「ネットなんかないから、好きな音楽はラジオ放送をカセットテープに録音するしかなかった。歌詞なんかわからないから必死に耳で聞いて探った。rock the cat boxってなんだ? 猫の箱? rock the cat box?……rock the casbahだったー!」というエピソードは、あー、アメリカ人でもそんなだったんだ、と嬉しかった。
※Netflixオリジナル
『ジョン・レグイザモのサルでもわかる中南米の歴史』
独占配信中
【予告編】
【視聴リンク】
https://www.netflix.com/title/80225421