フォーエバー ~人生の意味~
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観る作品のチョイスのせいかも知れないが、マーヤ・ルドルフの姿や名前をあちこちで見かける。シンガーソングライター、ミニー・リパートンを母に持つコメディアンで女優でミュージシャン。アメリカの老舗お笑い番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身者だけにコメディ系が多いが、サム・メンデス監督のドラマ作品『お家を探そう』(2009)で主演を務めたこともあれば、傑作ドキュメンタリー『消えた16mmフィルム』(2018)ではプロデューサーに名を連ねていた。ついでに言うと私生活ではポール・トーマス・アンダーソンのパートナーで、『ファントム・スレッド』(2017)の着想につながった「インフルエンザで寝込んだら突然妻が優しくなった」エピソードの“妻”とはマーヤ・ルドルフのことだ。
ビジュアル的には非の打ち所なき“オバサン”であり、むしろそのことを誇っている感すらあるルドルフ。いまや地味なオバサン、普通のオバサン、可愛いオバサン、イカレたオバサンまで、オバサンカテゴリーならなんでもござれの名女優でもある。そんな彼女がエグゼクティブプロデューサーを務め、倦怠期夫婦の妻を演じたのがドラマシリーズ『フォーエバー ~人生の意味~』である。
主演はルドルフと「サタデー・ナイト・ライブ」仲間だった盟友フレッド・アーミセン。二人が演じる中年夫婦のジューンとオスカーは穏やかな毎日を送っているが、子供はなく、刺激にも乏しい。このどこにでもいるような夫婦の判を押したような毎日を描く第1話の倦怠期描写が凄まじい。静かなんだけれど、夫婦関係の綻びが随所で感じられてじわじわと辛い。「あれ、これコメディなんじゃなかったっけ?」と思ったりするが、ほのかな可笑しさはキープしつつ、いきなりのクリフハンガー的展開で初回を終える……。
ここから先は、何を書いてもネタバレと言われる可能性があるから、念のためネタバレ予告をします。ここまでの説明だけではなにがなにやらでしょうが、この先を読み進むかはどうかみなさんのご判断で。
《ネタバレ注意、その1》
第1話のクリフハンガー的展開とは、マンネリ解消のためにやってきたスキー旅行で、夫のオスカーが事故死してしまうのだ。初回にして早くも主人公の一人死亡、である。
《ネタバレ注意、その2》
そして第2話は、突然夫を失ったジューンが、自分の人生を立て直そうと決意するまでのエピソード……なのだが、これまた最後でジューンも死んでしまうのである。不幸な事故は誰にも等しく訪れるにしても、神はこの夫婦になぜ不幸を集中させるのか。いや、そもそも神が興味を持たないような平凡さこそが彼らに理不尽な死をもたらしたのかも知れない。
《ネタバレ注意、その3》
さて、いきなり夫婦ともに死んでしまったところから、ようやくこのドラマは本格的にスタートする。死んだジューンは、なんの変哲もない郊外の町にいた。しかもそこではオスカーも暮らしていて、再会した二人はまた夫婦として暮らし始める。ただし幽霊として。つまりすでに死んでしまっている二人は、これから永遠に倦怠期を過ごさなくてはならないのだ。これを天国か地獄かは神のみぞ知るだが、第3話にして本作は、あの世とこの世の間で「夫婦とは何か?」というとてもパーソナルな命題に踏み込んでいく決意を表明するのだ。
さすがにドラマシリーズであるから、大きな変化のない“永遠”をただただ描き続けるわけではない。果たして幽霊は町から出られるのか? 町の外には何があるのか? なぜこの町にたどり着いたのか? などなど、60年代のカルトSFドラマ『プリズナーNo.6』的な謎を投げかけたり、町の住人(全員幽霊だが)と交流したり、新しい住人(これまた幽霊で、キャスリーン・キーナーが演じる)がやってきたり。ゆるやかに時間が過ぎる中で、少しずつジューンの中に変化が訪れる。いや、第1話から抑え込んできた倦怠期への不満が、マグマのように沸々と湧き上がってくるのである。
本作の凄みを最も感じさせるのが第6話。このエピソードでは主人公のジューンすらほとんど登場しない。レギュラーメンバーであるほかの幽霊たちも登場しない。ただ、あるモデルハウスで出会った不動産セールスの男女の道ならぬ恋の物語が、淡々と綴られるだけのだ。そしてこのエピソードがシリーズ全体でどんな意味を持つのかが、最後の数秒で明かされる。毎回のように手を変え品を変えジャンルを変えるシリーズの中でも、とりわけズシンとくる名作回だ。
果たしてジューンとオスカーは、あの世とこの世の間で仲睦まじく暮らしていけるのか? いや、それ以上に、われわれは“永遠に続く日常”に耐えられるのか? 常にシュールな夢を見ているような摩訶不思議な語り口で、かなり深い部分を抉りにくる野心作。そのわりに30分前後全8エピソードと見やすいので、人生に迷うすべての人たちにおススメしたい。
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【予告編】
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