ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル
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家族のいない、かなりの問題児(前科:反抗的態度、窃盗、ツバ吐き、家出、投石、蹴飛ばし、器物損壊、放火、放浪、落書きなど)のリッキー・ベイカーは13歳の誕生日を目前にして、児童福祉局から里子に出される。彼を迎えたのはニュージーランドの森=ブッシュと隣り合わせの山小屋に住むベラおばさんとヘクターおじさん夫妻。人の優しさに触れたことのないリッキーは新しい家族の中での振る舞い方に戸惑うが、優しいベラおばさんの暖かい歓迎により、次第に心を開いていく。13歳の誕生日に人生初のプレゼントである犬をもらい、トゥパックと名付け、3人の暮らしが幸せに続くかと思った矢先、なんとベラおばさんが急死してしまう。さらにひょんなことから指名手配されてしまったリッキーとヘクターおじさんは壮大なブッシュの中を数ヶ月に渡り2人きりでワイルダーピープルとなって逃走することになる……。
『ジョジョ・ラビット』が第92回アカデミー賞にもノミネートされたタイカ・ワイティティ監督による、問題児と偏屈おじさんのデコボコ逃走劇。『ジョジョ・ラビット』で少年ジョジョから見たナチスを巧みに描いたワイティティ監督の、子供を見つめる慈愛に満ちた眼差しは、本作品でも健在だ。本作品では、リッキー・ベイカー少年から見た世界と冒険を繊細に描いている。
この映画はリッキーが夢見たギャングストーリーであり、冒険活劇であり、どんなに状況が派手になろうと、多くの人を巻き込もうと、全てがどこか愛おしい寓話として表現される。
リッキーは非行少年ではあるが、俳句を嗜み、読書を好む。彼が“気持ちを表現するため”に児童福祉局で書いた俳句と言えば、ウジ虫についてなどやさぐれたものばかり。しかしベラの優しさに触れ、ヘクターとの絆、友情、親愛を深めていくにつれ、彼の俳句のテーマも変化していく。
リッキーとヘクターのバディが絆を築いていく描写も実に爽快だ。ベラおばさんの死により、家族としての体裁を保つために、2人は無理にでも仲を深めなくてはならなかった。リッキーは問題児とは言うものの、心の奥底は家族を求める優しい少年だ。しかし極端にデリカシーが無いため、様々な問題を引き起こす。対するヘクターの方も、偏屈でとっつきにくく、好意がなかなか伝わりにくいタイプ。コミュニケーション下手の2人だが、色違いのバッファローチェック柄パーカーに身を包み、2人(と犬たち)だけのブッシュでの暮らしの中で絆を深めていく。しかし社会から離れてブッシュに逃げ込んだはずが、さらにそのブッシュからも社会は2人を追い出そうとする。社会が2人を引き離そうとしたとき、2人は本当の家族になる……。
都会育ちのリッキーがトイレットペーパー無しにはトイレが出来なかったり、ベラおばさんが歌うリッキー・ベイカーのバースデーソングが妙に耳馴染みが良かったり、小ネタや駄洒落の数々も愛しいポイント。
ワイティティ監督の眼差しは常に優しく、映画を愛しく包みこむ。
ちなみに役者としても活躍するワイティティ監督は本作では、リッキーとヘクターたちになんともいえない説教をする神父役で出演している。監督とは映画における神様のようなものだし、それを媒介する神父として出演するのは尤もらしい気がする。
タイカ・ワイティティという神様に見守られながら、リッキーとヘクターは、何度でもブッシュへの旅に出る。
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